後日談『ロウの恋心』2

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後日談『ロウの恋心』2

 朝日が昇りはじめ、暗い岩場にもゆっくりと目映い光が届けられる。  岩場内をキョロキョロ見渡すが、トカプチの両親の姿はなかった。  やはり昨夜はここに戻って来なかったな。外に設置した大きなハンモックが気に入ったのか。あそこで愛を育んでいるのを感じた。オレの鼻と耳はよく効くからな。  それにしてもトカプチの両親は、オレが想像していたよりもずっと若々しい。まだ恋人の蜜月のような仲睦まじさだった。トカプチの心が広いのも慈悲深いのも、おおらかな両親に育てられたからなのだと理解できた。  昨夜授乳の流れからオレとトカプチが愛を交歓しあった後、トイを挟んでひとつのベッドで眠りについた。  完獣や半獣の時は、オレの鋭い牙や尖った爪が眠っているうちにトカプチを傷つけてしまいそうで、夜中にこっそり起きて外のハンモックに移動していたのが今となっては懐かしい。    朝日に照らされた己の手元を改めてじっと見つめると、まだ不思議な心地だった。  丸くカーブした爪先。  繊細な動きをする指先。    それから舌で歯を順番になぞると、鋭い刃物のようだった犬歯は丸くなり、トカプチの白い歯と同じ状態になっていた。    オレの躰がこんなに変化するなんて、夢みたいだ。  すぐ横であどけない寝顔のトカプチ。まだ剥き出しの素肌にそっと触れてみる。    温もり、人肌……寝息……  どれもひとりで岩穴に暮らしていた時には、無縁なものばかりだ。 そしてトカプチに抱かれて眠るトイの寝顔は天使そのものだ。  オレが手に入れたのは……いや違う  オレを受け入れてくれる存在が愛おしい。  トカプチの規則正しい寝息を吐く唇にそっと己の唇を重ねてみる。昨日は興奮してよく分からなかったが、なんとも言えない心地になった。  ぴったりと合わさっている。  オレの唇がトカプチの唇を優しく塞いでいる。  半獣の姿がより人間に近づいたことによって、トカプチとぴったりといい塩梅でつながれる面積が広くなったな。  大きな獣の口で人の口に覆い被るよりも、ずっと近く感じる。もっと近く感じる。 「ん……ロウ、くすぐったいよ」    どうやらお目覚めのようだ。    「何って、キスだ。ぴったり合わさるのが面白くてな、ちょっと舌を出してみろ」 「ん……こう?」  まだ寝惚けているのか、随分素直だ。いつもだったら怒られるところなのに、 トカプチの淡く色づいた引き締まった唇を……ちゅっちゅっと吸ったり、舌先でペロペロなめたり、周りに沿ってべろりと大きく舌を這わせたりいろんな感触を楽しんでみる。 「ん……気持ちいいな。マッサージされているみたいだ。あ……うっ……」  トカプチはまるで乳を吸われているかのように、うっとりとしていた。その表情に胸の奥がじんとした。    オレが誰かを気持ちよくさせることが出来るなんて。こんな日が来るなんて── 『完獣の世界に生まれ落ちた半獣』  生まれてからずっと忌み嫌われる存在だった。  それでも両親はオレを守り、愛してくれた。父はオレを庇い仲間に命を奪われ……オレを連れて逃げた母もオレに食べ物を与えるために凍える大地で餓死した。  半分、人間の躰で生まれたのをどんなに恨んだか。 『こんな姿で産まれたせいで、皆を不幸にした』    半分人間だからって、人間に受け入れてもらえるわけもなく、人間界に行けば今度は人間から追われ……完獣界でも蔑まれ……ひとりで生きていくしかなかった凍えた人生だった。  そんなオレがトカプチと出逢って思うのはただ一つ。  居場所がないのならば、一から作ればいい。  そのための生涯の伴侶を得たのだから……そのための可愛い子孫も得たのだから…… 「ロウ? どうした? 何を考えている?」 「なぁトカプチ……オレたちの国を作ろう。だからもっと子供も欲しいな」 「えっ」 「……営むか」 「な……なにを!もっもう朝だよ。あれ?そうだ、父さんや母さんはどこ?」 恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め、ジタバタと暴れ出すトカプチの様子が愛おしくてきゅっと抱きしめた。 「早まるな。今じゃない……いずれトイに兄弟もつくってやろうという意味だ。さぁもう起きるぞ」 「なっなんだよ。そういう意味ならそういう意味だって、ちゃんと言えよーはっ恥ずかしいったら……もうっ」 「くくくっ」  幸せな朝は、愛する人と迎える朝。  笑い合える人が、すぐ傍にいる朝がいい。  愛しいトカプチ……君はまだとても若い。  オレたちの未来はこれからゆっくりと作っていけばいい。   その一歩を踏み出した。 『ロウの恋心』 了 …… あとがき ……    甘いふたりの恋心。  後日談いかがでしたか。  なんだかこのままお話を続けていきたい気持ちになっていますが、読んでくださる方がいらっしゃるのかしら。実は前々から凍った土地の開拓編『Grow』というタイトルだけは考えています。    
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