【里帰り編】 大地

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【里帰り編】 大地

 俺たちの息子は『トイ』と名付けた。『トイ』とは、この地で『土』を意味するそうだ。 呪いが解けたばかりの手付かずの北の地。ここで皆が平和に生きていくために必要なのは、作物が豊かに育つ肥沃な大地だ。そんな大地を手に入れたい。そして衣食住の全てをここで賄い、命ある限りロウと共に生きていきたい。  切なる願いを込めた名前だった。 「あぶぅ……あぶぅ……」 「なんだ?もう腹減ったのか、ほらっ」  上着をずらし平らな胸を露わにしてやると、トイが小さな口をパクパクしながら乳首に吸いついて来る。飲みやすいように優しく抱き寄せてやると、可愛い尻尾を嬉しそうに揺らす。胸元に埋める頭には小さいながらもモフモフの獣の耳がちょこんと立っている。  なんと愛おしい存在なのか。  トイを守るためなら、俺はどんなことでも出来るだろう。 ****  トイは日に何度も俺の乳をたらふく飲み、スクスクと成長した。  やがて不思議なことが起きた。  トイの誕生と共に岩場の周囲に生え始めた草がどんどん成長し、もう草原と言える程に広がっていた。連れて来られた時は、北風が吹き抜ける荒涼とした平野だったのに……色なんてなく、岩場の灰色と雪の白だけの世界だったのに。 「すっかり一面、緑になったな」 急激に変化していく土地の様子を、ロウと肩を並べ、小高い丘の上から見下ろした。 「なぁロウ……あの草原の土は良さそうだな。あそこを牧草地にしないか」 「そうだな。牛を飼い酪農を始められれば、この地に移住してくる人がいるかもしれない。そうすればトイにも同世代の友達が出来るだろう。その……トカプチの話し相手も増えるだろう」  ロウの口調はいつも通りだったが、風に吹かれた毛並みがひんやりと冷たくなったのを感じた。だから俺はそんなロウの頬に手を伸ばし優しく温かな口づけを贈ってやる。  「ふっ……俺はお前がいればいいんだよ。だから変な心配すんなって」
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