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再会 その1
『ドアが閉まります』
プシュゥ。と音をたてながら電車の扉がゆっくりと閉まる。
「ふう、間に合った」
ギリギリで乗り込んだ僕は、その足で乗り込んだのとは反対側の扉の方へと向かい、適当なつり革に捕まると、大きな溜息をこぼした。
車内には、今日の社会での役目を終えた人たちが集まっている。
仕事帰りのサラリーマンが疲れ切った顔で手元のスマホをスクロールし、部活帰りの女子高生たちが何気ない雑談で一喜一憂している。
目の前の椅子に座る女性は、男からの執拗な誘いを澄まし顔で未読スルーしていた。
不可抗力とはいえ他人のスマホの画面を覗いてしまったことに少なからず罪悪感を覚え、僕は慌てて視線を外すと、再び大きな溜息をこぼす。
いつもと同じ時間。いつもと同じ電車。
すっかり顔なじみになった話したこともない人たちのことを視界の隅で認識しつつ、その後ろの窓に映る夜の街をぼんやりと眺める。
朝と同じはずの景色から、朝とは違い寂しさや虚しさといったマイナスな感情が引きだされる。
まるで映画のエンディングのように流れていく夜景を眺めながら、僕はこの後の予定に少しばかりの期待と憂鬱を同時に感じていた。
ブーブー。
胸ポケットで振動するスマホを取り出し、画面を確認する。
『拓:もう皆集まってるぞ』
スマホに表示されたメッセージを素早くインプットし、再び胸ポケットに戻す。
プシュゥ。
電車の扉が開き、いつも一緒に降りる面々がそれぞれの日常へと帰っていく。
その様を最後まで見送り、再びスマホを取り出すと、慣れた手つきでメッセージを打ち込んだ。
『もうすぐ着くよ』
プシュゥ。
乗客が入れ替わり扉が閉まる。
塾帰りの受験生に、買い物帰りの主婦。
見慣れない人たちを新たに仲間に加え、電車はゆったりと走り出す。
あの頃から何も成長していない僕を乗せて。
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