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肇は仕様が無いから引っ越し間際に秀君が言ってくれた「向こうで友達を作るには未練を絶たないといけないから僕の事をいつまでも思ってたら駄目だよ」という助言を思い起こし、「秀君は僕の事を思って敢えて年賀状を出さなかったんだ」とこじ付けようとしたが、土台、無理な話で無駄骨に終わり、結局、託つ事になった。
「僕は中学一年生の時に宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を読んでいたら秀君がカムパネルラで僕がジョバンニに思えて来る位、秀君の事を思慕していたのに全く裏切られてしまった気がして悲しくて堪らない。慮ってみれば、秀君は僕が転校後も友達が一杯いて、その交友に満足していたから僕を思慕する必要が無かった・・・一方、僕は転校後、友達が出来なかったから、いつまでも秀君を思慕する必要が有った・・・嘗ての親友同士が悪夢の引っ越しに因って距離を隔てて僕の片思いみたいな関係になって親友に裏切られたという思いを僕に抱かせる仕儀となったのだ。これは早くアパート暮らしから抜け出してマイホームに住みたい、早くマイホームを構えていっぱしの男と認めてもらいたいと利己的に願う余り、我が子の極度に内向的な性格を顧みず考慮せず斟酌せず蔑ろにして土地が安いからと言ってK町の学区内から遠く離れた所に急いで家を建て引っ越しを断行し、我が子の馴れ親しんだ土地と幼馴染とその他大勢の友達を奪って我が子を不遇に陥れた愚かな父の無謀な軽挙妄動が齎した悲劇だ!」
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