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早速、肇は駅前のロータリー沿いに在る雑貨店へ歩いて行き、店先に吊るした鳥籠の中の店の名物となっている九官鳥に、「肇が来たよ」と話し掛け、「はじめがきたよ。はじめがきたよ」と九官鳥が繰り返したのを確と聞き届けた。それから商店街のレトロな裏通りではなく、至って平凡な表通りに通じるロータリー沿いの歩道を懐かしく思いながら西へ15メートル程、歩いて商店街に進入した。
肇は年明け早々営業を開始した店舗の照明だの様々な看板を照らし出す照明灯だの僅かに点在するネオン看板だの菓子の「きのこの山」を連想させる街灯だのに照らされた明るい人通りの疎らな歩道を店先の福引ガラガラ抽選器や福袋や初売りの文字が躍る立て看板なぞを横目に新春を感じつつ歩いて行った。
店先の門松を見た時、「門松は冥土の旅の一里塚、めでたくもあり、めでたくもなし」という狂歌を連想して一休さんみたいに髑髏を掲げて歩いてみたいと風狂の念に駆られたりして西へ100メートルばかり歩いた。そこで独特の匂いに誘われ、大好きだった大判焼き屋に立ち寄り、思い出深い匂いに包まれながら大判焼きとたい焼きを二個ずつ買った。
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