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――なにがハロウィンだ、どこもかしこも浮かれやがって……
渋谷の雑踏を歩きながら、角川好季は心の中で毒突いた。
そもそもケルト人の宗教的意味合いを持つ行事が、アメリカでお祭り騒ぎとなったのも、まだ歴史があるから許せるが、何でもありの日本人にも毎年の仮装が定着してきた。
いや、認めたくはないが、たしかに個人的妬みも入っている。
大学一年、気がつけば親しい友人がいない。
教室などで会えば話はするが、メアドを交換しても、来る内容といえば授業の課題の確認くらい。好季の方も聞かれたことに返事をするだけで終わりである。
原因も好季自身、よくわかっていた。いわゆるコミュ障というやつだ。
それも先天性のものではなく、対人恐怖症だということもわかっている。
話した内容に変なものはなかったか、今一瞬、相手が眉を顰めたのは自分が気に触ることを言ってしまったからかとか、いちいち気にして、ほんの五分の世間話でもとにかく疲れてしまう。
中学まではそんなことを気にしたことはなかった。
高校に入学してからだ。たまたま同じ中学からの友人がいなかったというのもあるが、気づけば独りでいることが多くなった。
そして友人を作ろうと意識すればするほど空回りし、言動が不自然になっていたらしい。ある日友人が影で『角川のやつ、キモい』と言っていたのを聞いてしまい、決定的となった。
自分から話しかけられなくなってしまった。
十月三十一日の夜、仮装姿の楽しそうな見知らぬ人々に揉まれるように、好季は駅へ向かってなんとか歩みを進めていた。なにも好き好んで、この日、この時間に、常に混雑しているこの街を歩いているわけではない。
なんとか入れた私大の最寄り駅が渋谷だっただけだ。
陽が暮れ、これから盛り上がっていくのか、駅からはうんざりするほど人が湧き出てくる。好季は川を遡る鮭のような心境で、とにかく早く電車に乗りたいと思いながら人波を泳いでいた。
「角川くん?」
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