この女

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スーツの内ポケットから何かを出して、二人の目の前に突き付けた。 「この人、見たことあるでしょ?」 「ない!」 「私も…。」 そうは答えたが実はあった。 それは二人のいるビルのオーナーで、働いているレッドブルグカンパニーの社長になる。 事務所に顔を出すのは稀で、出してももっと地味だし、化粧も普通。 この写真のレッドは明らかに派手でそっち系の女性だ。 「あんたたちの働いてるとこのビルに、この人が入って行くのは調べが付いてんだよ!」 「だとしても、うちは借りてるだけだし、私達はその中のひとつの会社で働いているだけ。そりゃあ、小さいビルかもしれないけど、何部屋あると思います?知り合いのとこに来ただけかもしれないし、知らないのよ!」 めいは睨んで男に言った。 ふぅ…とため息を吐くと、男は一旦車を降りた。 「めい!あれ…。」 「狙いはレッド。ことり、今度ドアが開いたら降りて。上手いこと逃げて?あとは引き受ける。くくるが聞いてるはず。話は伝わってる。」 「あれはダメでしょ?あの男はかなりだよ?他は何とかなるだろうけどさ。二人で逃げよう?」 「多分…だけどね?あいつ、見覚えがあるんだ。それが確かなら何とかなると思うんだよね?まぁ、ちょっと危険な香りもするんだけど…。」 「めい!逃げよう?」 「ことりはいつか、お母さんと妹に会いに行くんでしょ?ちゃんと逃げて?」 「めいは!」 「お母さんはいないしね?父親も知らないし…。」 悲しそうにめいは笑う。 めいとことり。 二人は子供時代から共にいた。 ことりがレッドに引き取られた時、そこにはもうめいがいた。 お互い初めは気に入らず、同じ学校なのに同じ帰り道で喧嘩する程だった。 めいはその頃にはもういつかレッドブルグカンパニーに入ると決めていて、体を鍛えて色々な事を習っていた。 中学に入り親のいない二人は、虐めの対象、餌食になった。 ことりは自分から不良と言われるグループに入り身を守ったが、めいは一切、誰とも関わりを持とうとはしなかった。 幼稚な虐めも、下らない怪文章も、閉じ込められたり水を掛けられたりしても、表情も変えずに黙々と学校に通っていた。 その虐めの対象者に、不意に教室でめいが向けた目は、 「下らないあんたらを相手にしてる暇はないの。」 そう言っている目だとことりは思った。 それからめいに興味を持ち、付きまとい始めた。 その所為でめいはことりの付き合っていた不良グループから呼び出されたりもした。 ことりが駆け付けた時には、めいの足元にそれは転がっていた。 それをきっかけにことりはグループと縁が切れた。 そこからはいつもめいと行動を共にした。 学校が終わって、めいが行く所には一緒に行った。 柔道も剣道も空手もパソコンも習った。 いつしかめいは、誰よりも信頼できる家族になった。 (めいの命令は絶対!) 「逃げればいいんだね?」 悔しそうに唇を噛んでことりは言う。 「うん、後は任せて?」 「絶対、帰って来てよ?家賃、折半なんだからね!」 「分かってる、開くよ?いい?」 車のドアが開くと同時に、乗り込もうとしている男に二人で体当たりする。 転びながら外に投げ出されて、そのままことりは立ち上がり走って行く。 「てめぇ、何してやがる!」 腕を捕まれて、起き上がらされる。 そのままクルッと反転して、めいは腕を捕んだ男の手を捻じ上げた。
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