じゃあね。

2/5
549人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
母親だろうと思う人と、二人だけで暮らした7年間。 不幸ではなく、幸せでもなかったかもしれない。 (それでも…あの頃の自分に教えてあげたい。) 「お父さんは不器用な愛情を静かに注いでくれているよ? お母さんはあなたが産まれてくるのを楽しみに待っていたって…。 本当よ?」 千羽がここで夢見ていただろう夢を…めいも見る。 産んだ子供に罪のない事に気付いて可愛がる母親。 遠慮気味に顔を出す男にも、少しずつ時間の経過と共に優しい顔を見せ始める。 いつしか…親子で暮らしている。 泣きながら、真名はそんな幻を見る。 ーー「じゃあな!」 最期の言葉を思い出した。 千羽は後悔していない。 そして最後まで守ってくれた。 (もう、あの怪我はかなりひどい傷だったのよね?) 真名を殺人犯にしない為に長く生きて、罪を全て話す為に彼は生きていたのだ。 大きく息を吸い、ゆっくり吐いた。 「事実上…あなたを転がしたのは私よね?あなたもその方が嬉しいでしょう。 いつか…会えるわね?ずっと先だけど、そっちは一瞬でしょ? 怒るから………待ってなさいよ!千羽名波!……お父さん、じゃあね!」 元気に言って向きを変え、車に乗り込んだ。 最後に少しだけ見て、めいは車を発進させた。 「めい!どこ行ってたの?」 マンションに帰ると、相方の大きな声がする。 「こんな朝早くから…。あ、仕事入ったらしい。駅前に集合、8時半!」 パンを食べて言うことりに、めいは驚く。 「ちょ…8時半?もう!パン食べてる場合?行くわよ!ほら!」 「まだいいでしょ?車、あるんだから…。」 「もう…。駅前に車で行ける訳ないでしょう?車で行くなら私は不参加よ? それでもいいの?」 めいに言われて、ことりはバタバタし始める。 「上着持ってくる。玄関で待ってて!」 二人で慌てて部屋を出た。 玄関の音で気付いた高科はベランダに出る。 「変わんないねぇ…。今日も元気そうだ。」 呟いて、朝陽に照らされた二人を見ていた。
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!