高科 貴規

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人捜し…そういう名目で彼女達は現れた。 貴規が経営するクラブの客としてだった。 「オーナー。次から次に指名を変えるのがいるんです。」 たまたま顔を出した事務所で、店長に報告を受けた。 「いつも来るのか?」 「いえ、初顔です。」 「酔ってるのか、好みが煩いのか?」 移動しながら聞いた。 「それが…女性二人組のお客さんで…どう見ても20前後。」 「はぁ?」 スタッフオンリーから呆れてカーテンを少し開けて見た。 「……お前、あれはどう見ても20そこそこか行ってないかだ。金も持ってないかもしれないな。遊び半分で入ったんだろ。追い返せ。穏便にな? ちょっと待て!あの子確か……。」 高科は二人組をもう一度よく見た。 普段はしてない化粧や服装で印象はかなり変わっていたが、グレイゾーン育ちのあの子だと気付いた。 「いつからいる?」 「3時間前です。店の女の子はほぼ入れ替わりました。」 (あのグレイゾーン育ちの子は、高校を出てどうしたと聞いたかな? 就職して、あのビルは出たという話だった。なんでここに?) グレイゾーンを出て、自由に生きたがる人は多い。 みんな、親や周りのしがらみを捨てて、自由に真っ当に生きたいと願う。 (彼女も同じはずだ…なのに何故ここにいる?) 追い出される振りをして、片方が飲み過ぎたとスタッフに寄りかかり、その間にスタッフオンリーの事務所に入られて、気が付いたら窓から逃げられ、もう片方も退散していた。 盗まれたのは名簿。 過去に働いていた女の子の物まで全て…。 少し腹を立てながらも、面白さに笑った。 竜堂組の一派に入っていて、ブラック地区で敵なしの俺の店を引っ掻き回した訳だから、面白くもある。 そんな頃、空き部屋の目立つマンションの最上階に引っ越して来たのがいた。 このマンションのオーナーがなかなかここを売らないから、余計な奴が越してくる、そう思った。 「最上階は俺の部屋にしようと思ってたんだがな?」 「すぐ出て行きますよ?オーナーも稼働率を上げて家賃が欲しいだけみたいですし…。」 ブラック地区のマンションのオーナーも所詮はブラックかと鼻で笑う。 事務所には週に一度顔を出すだけで、家は別にあった。 その日も事務所に昼過ぎに顔を出した。 「あぁ、もう。ことり飲み過ぎ!」 「だって、仕事じゃない?」 「もう昼過ぎだよ?気になって迎えに行って良かった……。ほら、もうすぐ家だよ。」 「美味しかったよぉ〜!一晩、飲み明かした!最高〜!!」 手を上げて騒ぐ女がロビーに入って来たのを見た。 「何だ?」 「ああ、最上階に住んでる人です…。」 若いのが珍しく優しい目で報告する。 「は?6階か?隣に誰か住めよ?出て行くだろ?」 窓に近寄りどんなやつか見ようとした。 「それが…脅しても怖がらせても全くで…。差し入れとかもらっちゃって…。」 「はぁ?アホか!!」 怒鳴りながら窓を開けた。 バン!! と、開けた瞬間、目の前を通過する女と目が合った。 女は会釈して、 「お騒がせしてます…。」 と言いながらも平然と通過して行った。 グレイゾーン育ち……あの子だとすぐに気付いた。
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