高科 貴規

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「隣に越して来ようと思っているのですが……。」 その日、二人組の女の部屋のインターホンを鳴らして言った。 キョトンとした顔で、 「そうですか。よろしくお願いします。」 と言い、頭を下げてドアを閉めようとした。 足を挟んで食い止めた。 (嘘だろ?竜堂だぞ?高科組だぞ?俺が高科だと挨拶しただろ!出ていけよ!) 「何かまだご用ですか?」 ドアを開けて平然と答えた。 「ああ、出て行ってくれないか?」 その言葉に、二人は顔を見合わせて、事情もおありでしょうし…と呟いて俺を部屋に招き入れた。 この高科を…二人とはいえ平然と自分たちの部屋へ…。 (頭足りないんだろうな…。) そう思った。 部屋に入ってリビングに通された。 何もない……見事に何もないリビング。 カーテンだけが開いている窓を教える様に揺れていた。 「適当に座って下さい。今、お茶でも…。」 (竜堂組の一派、極道と呼ばれる人間を招き入れて、お茶でも?) グレイ育ちは頭が弱いんだなと思い、話を始めた。 「お茶は結構です。この部屋を引き払って頂きたい。いずれは私がここのオーナーになるつもりです。その時には出て行く羽目になる。 時間はあげますから、今ならのんびりと気に入った物件を探せる。 引っ越し代位はお出ししましょう。」 これで終わりだ。 にこやかに、でも睨みを利かせて俺は言った。 二人は顔を見合わせて、一人が何故か玄関に繋がる廊下のドアの前に立った。 グレイ育ち…彼女はお茶を持って俺の前に座った。 「どうぞ? ここへはまだ越してからそれほど経ってませんし、オーナーが代わられたらその時には検討します。」 「引っ越し代は出す!」 驚きのあまり大きな声になった。 凄んで、脅して…そういう声で話したのにまるで効いてない。 「引っ越し代は関係なくて…二人で住むのにここは十分な広さで、何より人も少ない。隣も未だ空き部屋です。私達には都合が良くて…。 家賃格安ですしね?あ、それはお礼を言わないと…あなた方のお陰ですものね?」 笑顔で返された。 頭が弱いなど、とんでもなかった。 1階の俺の事務所さえも家賃の安い理由としてあるだけだ。 怖いだの嫌だな、なんて普通の考えは彼女達にはなかった。 その笑顔に毒気を抜かれた気分になり、この高科が黙って部屋を後にした。
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