捕獲!

2/5

552人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
「要人は辞めたの。一緒に行くも何も……何もないし、誘われてもいない。 それに…。」 「それに?」 「誘われても行かない。要人はグレーゾーンにいては出来ない事をしたいと辞めたけど、私はグレーゾーンにいないと出来ない事がまだある。」 「出来ない事?」 「ことりだってお金、返すんでしょ?働かないといつまでも終わらないよ…返済。」 「怖い事言わないでよ……。」 ことりは苦笑いして、リストを写したスマホの画面を見た。 「4丁目…9…の2…この辺だね?」 二人で見上げたそこはコインランドリーだった。 「へぇ…今どきの寮はお洒落だねぇ?」 中に入るとことりが言う。 普通のコインランドリー。 人はいないが、二つほど洗濯機と乾燥機が使用中。 「まさか、巨大乾燥機の中で寝ないよね?」 乾燥機を開けてことりは笑う。 「酔ってて帰る所がないなら寝るかもね?」 答えながら、めいはコインランドリーの会社の名前が書いてある注意書きを見ていた。 「ここも経営しているみたいね?会社名は……ペーパーカンパニー? オーナーは同じ…了解。ありがと、くくる。」 くくると通信していたのはことりにも聴こえていたが、どうも腑に落ちない。 「ペーパーカンパニーで、コインランドリー経営出来るの?」 「出来るね。ペーパーと言えど事務員は置いてるし、子会社と考えた方が早いわね?綺麗な社名付けた方がいいって事。」 「ふぅん…。いい加減な世の中ね?」 「そう思うわ。で、ことり?服でも靴でも良いから、引っ掛けるなりして放り込んで?」 「は?」 真面目な顔で珍しくめいを見た。 「靴でいいわ。放り込んで!その巨大な乾燥機に!」 「え?これ、コンバースだよ?冗談やめてよ?」 「ナイキだろうがコンバースだろうが私には靴!」 ことりは靴に拘りがある…というか愛着があり過ぎる。 特にコンバースは新作が出れば買いに行く程だ。 お気に入りの靴を履いて歩く事は幸せのひとつだ。 めいにその巨大な趣味は理解出来ない。 革がどう…ソールがどう…一度履いて温度がどう、湿気がどう……意味不明である。 靴は履いて、履き心地が良ければいい。 「新品なのよ?今日下ろしたばかり……のぉぉぉぉぉぉ!!」 ガッと足を掴まれて、サッと片足脱がされ、ポイッと投げ込まれ、バン!と閉められる。 「心が痛むのよ?靴を乾燥機に放り込む行為……だからこそ私のヨレヨレの汚い靴より、下ろしたて新品の靴の方が罪悪感は少なくて済む。そうでしょ?」 悲しい顔をして言われる。 「いや…乾燥機には確かにそうだろうけども!何で放り込む必要が?」 「大丈夫。回ってない。これ、アクシデントだから。係を呼ばないとね?」 「え?」 ご利用について…その張り紙をことりも見た。 「何かお困り事、機械トラブルがありましたら、こちらにご連絡を…。」 最後の小さい字で書いてあり、電話番号が載っていた。 「ちょ……お困り事?」 乾燥機の中の靴を指差した。 「もしもし?今、コインランドリー何ですが、友人が転びそうになった拍子に靴を片方、乾燥機に入れてしまって…。結果転んだので、ドアを閉めてしまいまして。ロックがかかったみたいで……開けて頂けませんか?」 電話を切ると、めいはことりに笑顔を向けて、 「来るって!」 と言った。 「え?いや、呼んでどうするの?管理人が来るの?」 訳も分からずことりは聞いた。 「普通はそうでしょうね?でも、ペーパーカンパニーで事務員は無理でしょ? 家が近くないと無理。で、この裏には恐らく従業員の休憩スペースくらいはある。掃除とか、お金の回収、洗剤の補充の為にね? 寮の住所はここ。なら、その休憩スペースに何人か住まわせてない? 夜は黒服、昼間はここの管理。ここは頻繁には呼び出されないから寝ててもいいし…エンドストームは人件費を削減出来る。 よく考えたわよね?さすが、客の女の子を騙して働かせるだけある。 あれも面接みたいなものでしょ?」 「でも、来るのは一人?」 「だから来る方向を見て、私はその休憩スペースにいるかどうかだけ確認に行く。外で見てるから、ことりはここで来たのが当たりなら捕獲ね?」 言いながら自動ドアが開いて、素早くめいは出て行った。 「靴を乾燥機に放り込んだ女……嫌な役……。」 間もなく管理人だと言う男性が自動ドアから入って来た。 ことりは照れ笑いを向けた。
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

552人が本棚に入れています
本棚に追加