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「まぁいいじゃないですか。前言ってましたよね?たまに告白してくる輩がいて面倒臭いって。丁度いいじゃないですか。噂の相手はとっても仲のいい、可愛い後輩の僕だし」
「ま、まぁそうね。そこら辺のブサ面の男と噂されるよりは和人みたいな普面と噂されてた方がマシね」
「なんか失礼じゃない?それ」
僕は苦笑いをしながらおにぎりを食べ進める。ペットボトルのキャップを外して、お茶を乾いた喉に流し込んだ。
まだまだ夏はやってくる気配すらなく、梅雨のまとわりついてくる様な湿気もまだ気配を消している。
適度な温度を供給してくれるお日様は今日も健在。うちわでゆっくりと扇がれている様な心地の良い風。
豊ヶ浜高校の屋上では正に、世界の平和を象徴しているかの様な、のどかな時間が過ぎていたのであった。
と物思いに耽っていると莉緒さんが「ちっ」と小さく舌打ちをした。
「どうしたんですか?」
「しつこいのよね、最近」
見せてくれたスマホの画面には、僕の知らない男とのトーク履歴が表示されていた。決して嫉妬はしていない。
「莉緒さん、僕以外にお話しする相手いるんじゃないですか。良かったですね、これで僕らの関係も…」
「あんたちゃんと読んだの?」
急に真面目になるところは未だに慣れないが、そのツッコミを置いておくとして僕はトークの内容を真面目に読んでみた。
「ストーカーじゃないですか、これ」
内容は怖くて気持ちの悪いものだった。
「莉緒ちゃ〜ん、今日は僕とシてくれないの〜?」
「そんなにあの男がいいの〜」
「妬いちゃうな〜。俺とした方が絶対に気持ちいいって」
「あんまり無視すると、あの男の子ボコっちゃうよ?」
そんな内容を一方的に、不定期に送られてきていた。
ここ数日は毎日のように送られてきている。
「莉緒さん、なんで言ってくれなかったの?」
「和人を巻き込みたくなかったのよ」
「それ言うなら最後までちゃんと隠して欲しかったな〜」
少し意地悪なニュアンスを含めて言うと、莉緒さんはあんぱんの袋をぎゅっと掴み
「怖かったのよ。ずっと」
久しぶりに見た素直な莉緒さんに、乱暴にも僕の心を掴まれた気分になった。
鼻の頭を掻きながら莉緒さんにスマホを返した。
「そいつ、誰なんですか? 」
「クラスの男子。なんちゃってヤンキーのリーダー格の子よ」
犯人がわかっているならすぐに先生に言うべきだと莉緒さんに言っても首を横に振るだけだった。
「そんなことしたら、事情話さなきゃいけなくなるじゃない。嫌なのよ。もう、あの時のことを思い出すのは」
莉緒さんは悔しそうに唇を噛んだ。
僕たちは出会ってまだ一ヶ月半程だが、この間に莉緒さんは変わった。
それを僕は見てきている。
それを思うと、全てを踏みにじろうとしてくる奴に無性に腹が立った。
「僕に任せてください」
「やめて。お願い。このままにしておけばいい。何も起きないから。お願い」
真剣に頭を下げる莉緒さんを見るのが初めてだったから、戸惑ってしまったけど最後には了承した。
本当は今すぐにそいつのところに行って胸ぐら掴んで文句の一つでもいいながら一発顔面に入れてやりたい気分だったが。
吹いていた風が止んだ。
照りつける日差しは相変わらずで、どんどん屋上の気温を上げていった。
頭を冷やすように水を被りたいが、そんなことしたら後で困ると頭の中にいる冷静な自分に説得され、お茶で喉を潤すに留まった。
昼休みを終えるチャイムが鳴って僕たちは屋上を後にした。
「じゃ、放課後ね」
そう言って莉緒さんは二年生の教室に戻って行った。
「決定事項か」
あんな物を見せられた後だから、僕も莉緒さんを家まで送るつもりでいたから丁度良かったが…。
しかし、それにしても
「友達いないんだなあ、あの人」
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