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 放課後。  正門で待っていると莉緒さんが走ってこちらに向かってくるのが見えた。  然も彼女のように僕の前まで走ってくると両手を合わせて謝罪の言葉を口にした。  「そんなキャラでしたっけ? ブレブレですよ?」  莉緒さんは僕の脛を蹴って一人で歩き出した。  僕は痛みで蹲り暫く歩けなかった。  信号のところで待っていた莉緒さんは、初めて会った時のように腕を組んで待っていた。  胸はちゃんと強調されている。  「遅いわね。あんなので怯んでちゃ私を守れないわよ、坊や」  そう言って僕の顔の輪郭を指先でなぞった。  「それは戻り過ぎ」  「何よ、清純派になろうとしても文句言うし。意地悪なお姉さんキャラでも文句があるわけ?」  それでいいよ莉緒さん。いつも通りだ。  それは言わずに僕は笑いながら青になった信号を渡った。    二人、同じホームで仲睦まじく電車を待つ僕らはカップルに見えなくもないだろう。  あんな噂が流されても文句は言えない。実際、悪い気はしない。  昼に坂内に「代わってくれ」と言われた時、冗談と分かっていながらも少しイラッとしてしまったくらいだ。  なんだかんだ、僕も莉緒さんとの関係を、時間を楽しんでいるのだ。  莉緒さんが変わったように、僕も少し変わったようだ。  以前の僕には考えられない光景の中に、今僕は身を投じているんだから。  「莉緒さん」  呼びかけるとこちらを向いてくる彼女。呼びかけて振り向いてくれる存在がこんなにも近くにいる僕は幸せ者なのかもしれない。  僕は幸せになっていいのだろうか。  突然、疑心暗鬼になる。  この癖はまだまだ治る兆しはない。  しかし、いつか治る日が来るのかもしれない。  莉緒さんと一緒にいれば…。  「お母さんに会う決心はつきましたか?」  「会う以前に電話しなきゃでしょ。電話ってハードル高いわよ…」  まだ決心はついていないようだ。  あの恐怖を乗り越えるのはそう簡単なことではないのを、僕は身を持って知っている。  だから無理に、僕のエゴを押し付けるような真似はしない。  僕だって同じだから。    ホームに入ってきた電車の三両目に乗り、空いていた座席に並んで座った。  ここから終点までの十三駅、約三十分の乗車時間。  窓の外を眺めたり、莉緒さんと最近ハマっているスマホゲームの話をしたりして過ごす。  これもすっかり僕の日課となっていた。  その平和な空間を壊すように、隣の車両からガヤガヤとうるさい三人組が三両目に移ってきた。  以前見かけた三人組だ。  そいつらは優先席に座り僕らをチラチラと見ながら、わざとらしい大声で話し始めた。  「なぁ、知ってるか。うちのクラスの木崎莉緒の話」  「えーなになに?」  「なんかよー、聞いた話なんだけど、頼めば簡単にヤらせてくれるらしいぜ?」  「まじ? お願いしちゃおうかな?」  「まとめて三人相手してくれるかな?」  笑いながら不快な内容を車両に響くように話す奴らを睨み付けると、リーダー格の男が僕の視線に気づきニヤッと不気味に笑った。  「そういえば最近、彼氏できたっぽいぜ?」  「セフレのうちの一人だろ?どーせ」  僕は自分の中の何かが切れる音を確かに聞いた。  席を立ち上がり奴らの方に向かおうとすると  「ごめんね。和人。私のせいで。でもやめて。放っておいて。全部私の蒔いた種なのは確かだから」  手を握って離そうとしない莉緒さんの顔は悔しさと悲しさ。公共の場で言いふらされた恥ずかしさで今にも泣きそうな顔をしていた。  僕は大人しく座り直して莉緒さんの手を強く握った。  「ごめんね。僕が立ったら周りに『僕らですよ』って言ってるようなものだったね」  冷静になって僕は自分の行動を恥じた。  軽率だった自分を反省し、莉緒さんのいないところでケリをつけようと固く誓った。    その後も嫌味は続いた。  ヤンキー風情を装っているくせにやっている事はまるで陰湿な女子で、笑いそうにもなった。  思わず立ち上がって奴らの所に駆け出しそうにもなった。  でも今は莉緒さんの手を握り、彼女の側を離れないことに徹した。  「おい、熱く手を握り合ってるぜ」  手を繋いだまま終点一個前の駅で下車した僕らは、駅のベンチにひとまず腰掛けた。  電車がホームを去るのと同時に、莉緒さんは栓を外したかのように泣き出した。  「ごめん、和人。ごめんね。ごめん」  泣きながら謝る莉緒さんは、まるであの日の母のようで僕は悔しかった。  これだから嫌なんだ。誰かと必要以上に仲を深めるのは。  僕は莉緒さんに言葉をかけることなく隣の席に座っていた。手を離すことなく。
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