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 莉緒さんが落ち着いてから僕らは改札を通って駅を出た。  この駅から僕らの最寄り駅までは歩いて十分程だから、そこまで苦にならない。  僕は莉緒さんの半歩先を歩いた。並ばずにその距離を保った。  最寄り駅に着くまで何度か莉緒さんに話しかけようと思ったが、何て話しかけていいのかわからなくて、その度に止めた。  莉緒さんの方を振り返らなかった。  足音がちゃんと付いてきている事を視界の端で確認しながら歩いた。  最寄り駅に着くと莉緒さんが僕の前に立ち塞がって、真っ直ぐ僕の目を見て口を動かした。  「嫌になったなら言って。もう付きまとわないから」  固い決意を宿した瞳の奥は悲しい色をしていた。  「嫌になんかなるわけないだろ」  「じゃー何で隣に居てくれないの!」  なんだよそれ。今だっているじゃないか。  「はは。莉緒さん彼女みたいなこと言いますね! 本当にキャラぶれぶれ」  莉緒さんの瞳が揺れた。  「彼女? 冗談じゃない。誰があんたみたいなデリカシーのない奴の彼女なもんか」  「は? デリカシーのなさはお互い様だろ。何キレてんだよ」  何してんだよ、俺。  これじゃカップルの痴話喧嘩みたいじゃないか。  「あんたみたいな奴、一生一人でいればいいんだわ。いつまでもいつまでも妹さんの事でウジウジしてなさい! 誰もいなくなるわよ。あんたの前から!」  「うるさい!」  僕が怒鳴ると莉緒さんは少し肩をビクッとさせた。周りの視線も集めてしまっている。  僕は瞳に、久しぶりに涙が溜まっていくのを感じていた。  流してなるものか。これは自分のための涙だ。そんな物、僕には必要ない。  「あぁ、わかったよ。言ってやるよ。毎日、毎日、友達のいない先輩の世話させられて困ってたんですよ。優しくしてれば調子に乗っちゃって」  やめろ。そんなこと思ってない。  「電話一つもできない奴に、一生ウジウジしてろだなんて言われたくないね! 言う資格もないね。身の程を知れ天涯孤独予備軍のミス豊ヶ浜!」    僕たちは距離を縮めすぎた。  他人から距離を保っていた僕らが急速に近づけばこうなることは、少し考えたら分かることだ。  まだまだ愚かだな、僕は。  「ごめん、莉緒さん、違うんだ…」  「ありがとう、和人」  莉緒さんの顔は優しく、綺麗な笑顔で僕を包んでくれた。  なんで。どうして。  それは僕が君にしてあげたかったことなのに。  「和人、自分の気持ちに蓋して、締めっぱなしにするのは良くないよ?たまには開けてあげないと」  そう言うと莉緒さんは体を反転させて家の方向に一人で歩いて行った。  僕は追いかけることなくその背中を見ていた。  時折、制服の袖で顔を拭っている仕草をしていたが、彼女は泣いていたのだろうか?  僕は相変わらずのダメ人間だ。  何も変われていなかった。  結局、自分が一番可愛いんだ。  こんな弱い奴が誰かの力になんてなれる訳がない。  僕はただ、莉緒さんの問題を、心を掻き回してしまっただけなのだ。  それが情けなくて僕は駅前の物陰で一人静かに、誰にも見つからないように泣いた。  もちろん天からも見えないように。
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