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涙は止まらない。
止める気もない。
好きなだけ流れればいい。
今まで僕が溜め込んでいた黒いものが流れていけばいい。
涙の泉が枯れ、そこから強欲な魔人が現れたって今の僕ならそいつを操ることができる。
何も怖くない。
少しの間を置いて莉緒さんが、膝の上に置いていた僕の手を取った。
手の甲におでこを付けて、肩を揺らす。僕の指と指の間を莉緒さんの涙が伝う。
「私もです。大好きです。杉浦和人君が大好きです」
僕は顔を上げて、莉緒さんを見つめる。
顔を上げず、手の甲におでこを付けたまま彼女は泣いている。
「私のせいで、迷惑をかけるかもしれない。嫌な思いをさせるかもしれない。でも…。でも…誰にも渡したくないんです!」
顔を上げた莉緒さんの瞳は、年頃の女の子のように真っ直ぐで綺麗な色をしていた。
今までの自分を、心の中を洗い流すかのように出てくる涙を拭わず、そのまま見つめ合った。
僕は莉緒さんに近づいて、強く、きつく抱きしめた。
莉緒さんも苦しいほどに僕を抱きしめた。
幸せな時間が過ぎていく。過ぎた時間が戻ってくる事はない。それが分かったから、僕らは今互いを想い合い、伝え合った。
でも、僕らにはまだやるべきことが残っている。
一歩踏み出した僕らがもう一歩、その先へ進むためにやらなくてはならない最後のこと。
それを果たすまで、僕らはこの関係を終える事はできない。
そのために僕らは、互いに感じられるわずかな体温で心を充電した。
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