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 莉緒さんが最初にかけたのは、母片の祖母の家だった。  当時のお母さんの携帯番号は登録されていたのだが当然、番号は現在使われていなかった。  「連絡しないでくれ」と言われているようなものだが、莉緒さんは諦めようとしなかった。  もしそうなのだとしても直接、お母さんの口から聞きたい。  辛い方の道を彼女は選んだのだ。    祖母の家に電話をかけた。  呼び出し音が鳴り始める。  「プルルル。プルルル」  莉緒さんのスマホから聞こえてくる呼び出し音が一回、また一回と過ぎていく。  5回目がなった時だった。  呼び出し音が止んで莉緒さんが話し出した。  「お久しぶりです。莉緒です」  畏まって莉緒さんは名前を伝えた。  「元気…。うん…。行ってるよ…。豊ヶ浜高校ってところ」  莉緒さんの受け答えからして大体の会話の流れがわかる。  どこのおばあちゃんも似たようなことを聞くようだ。  「それでね、おばあちゃん。聞きたいことがあるの」  莉緒さんが本題を切り出した。声のトーンが少しだけ下がった。  「あのね、お母さんの電話番号を教えて欲しいの…。お願い…。一度でいいからまた話がしたいの…。」  一度でいいなんて嘘だ。  また以前のような親子に戻りたいと思っているに決まっている。  「うん…。ありがとう、ちょっと待って」  そう言って莉緒さんはペンで何かを書くジェスチャーをした。  僕は紙とペンではなく、自分のスマホのメモ帳を開いて莉緒さんに渡した。  「お待たせ、お願いします」  そしてメモられた十一桁の携帯番号。  「ありがとう、おばあちゃん。あのさ、今度遊びに行ってもいいかな?」  莉緒の顔が不安で歪む。  心配の面持ちで莉緒さんを見つめていたが、次の瞬間には綺麗な顔によく似合う明るい、向日葵のような笑顔が咲いた。  「ありがとう!…うん! 私も! 楽しみ!」  それから別れの挨拶を言って莉緒さんは通話終了ボタンを押した。  「あー緊張したー。何年振りかしら、本当に」  緊張でカラカラになったのか、コップの中の麦茶をまたも一気に飲み干した。  「次が本番だね」  「うん。怖いけど、進まなきゃ」  莉緒さんはそう言いながらも落ち着かないのか、後頭部を何度も何度も触っていた。  お茶を注ぎながらその姿を見ていたら、僕まで落ち着かなくなってきた。  風で草花が揺れるように僕の心も不安で騒ついた。  コップを莉緒さんの前に置くと「ありがとう」と言ってた半分程飲んでスマホを手に取った。  落ち着かなくて、対して喉も渇いていないのに、僕はお茶を一気に飲み干した。  バラバラに飲み終えては手間が増える。なんて非効率なんだ。  僕は意味もなく自分にイラつく。  落ち着け。僕が焦ってどうする。落ち着いて莉緒さんの帰りを待つんだ。  おばあちゃんに教えてもらった十一桁の番号を入力し、「いくよ」と言ってから、莉緒さんは発信ボタンを押した。
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