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 僕たちは行きの反省を活かして、帰りはタクシーを使って駅まで戻った。  値段はケチる程のものではなかった。  素直に行きも使えばよかった。  きっと莉緒もそう思ったに違いないが二人ともそれは口にしなかった。  口にしたら、昼間の僕らが報われない気がしたから…。    ホームで電車が来るまでの三十分間、僕らは黙ってベンチに座っていた。  昼間歩いた疲れが今になって襲ってきたのだ。  廃人と化していた僕らはあることで揉め出した。  すぐそこの自動販売機にどちらが飲み物を買いに行くのかという事で。  「あなた行って来なさいよ」  「いやーここは先輩が後輩を労って奢ってくれるシーンで決まりでしょ」  「ここは男が自ずと立ち上がって疲れ果てた女の子に優しくジュースを差し出すところでしょ」  僕らは結局じゃんけんで決めることにした。  公平なるじゃんけんの結果、莉緒が買いに行くことになった。  「あなた本当にそれでも男?」  ぐちぐちと文句を垂れながら莉緒は自動販売機に向かって歩き出した。  「僕は真の男女平等主義者なんだよ」  莉緒の背中に言ってみたが無視された。  これ以上いがみ合う元気は残っていない様だ。  お茶を二本買って来た莉緒は、一本を投げて僕に渡した。  「ありがとう」  ちゃんとお礼を言ってからキャップを開けた。  莉緒は立ったまま腰に手を当て、お茶をグビグビと喉を鳴らして飲んでいる。  その姿はまるで風呂上がりのおっさんの様だった。  「なによ」  「いや、なんでもない」  莉緒が元の位置に戻り、僕たちは再び黙って電車を待った。  僕はいつ言おうか、沈黙の間ずっと考えていた。  今言おうか、帰ってから言おうか。  臆病な自分を克服したつもりでいたが、どうやらまだ物陰に隠れていた奴がいたようだ。  「明日野郎は馬鹿野郎だ」  誰の言葉か知らないが僕は呟いた。  「急にどうした?頭おかしくなった?」  「こっちの話」  いや、二人の話。  さあ、今だ!  「なあ、莉緒」  そう声かけた時だった。  電車が来ることを知らせるアナウンスが流れて遠くの方から電車のヘッドライトが近づいてきた。  「あ!きた!」  そう言って莉緒は黄色い線の所まで進んだ。  後でいいか。  と少し弱気になったが、自分で自分をビンタして弱気になっていた心を奮い立たせた。  「莉緒」  「なに?」  莉緒は顔だけで振り返った。  …まあいいか。  「莉緒。俺たち、やるべき事は全てやったよな」  「え。う、うん」  僕の真剣さに気づき、莉緒は体もこちらに向けて、手を後ろで組みながら僕の目を真っ直ぐに見つめた。  「待たせて悪かった。お互い忙しくて、結局夏休みまでこの関係続けてきたけどさ、終わりにしよう」  莉緒は静かに僕の言葉を聞いている。  「今から、僕の彼女になってください」  僕は頭を下げて右手を差し出した。  坂内に聞いた告白の仕方だったが、なんか古臭くないか?これ。今時こんなことする奴いるのか?  「今言う?」  莉緒は嬉しそうに微笑み、そっと息を吐いてから優しく僕の手を取った。  「よろしくお願いします」  電車がホームに入ってきて、昼間の残った熱気を帯びた生暖かい風が吹いた。  莉緒は左手で耳に髪をかけて微笑む。  電車が停車する数秒前。  電車の明かりに照らされた僕らの影は、そっと静かに重なり合った。  
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