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二
桜の花びらが殆ど散って葉桜となった木の下。
春らしさが少し遠のいた五月の連休前の放課後。
僕らは今日も飽きずに二人で、ベンチに腰掛けながら話をしていた。
「和人って最低ね。ちょっとは相手の気持ちにもなりなさいよ。」
「じゃー莉緒さんだったらなんて言うんだよ」
「そこは、あなたのことをよく知ってから付き合いたいから、まずはお友達から始めましょ、でいいのよ」
今日、僕は人生で初めて女子から告白されたのだ。その話を莉緒さんにするとあまり面白くなさそうな顔をしながらも、今こうしてアドバイスをくれているのだ。
「しかもその直後に他の女と密会だなんて和人はろくでなしよ」
「今日会いたいって言ってきたのそっちだよね」
新しくできた友達と遊ばずにこうして頻繁に莉緒さんに付き合っているのは、ミス豊ヶ浜という美人の先輩を間近で見ていられる僕の特権行使であるのは確かだが、一番は友達がいない先輩を見ていられないからだ。
やっとできた後輩友達と過ごすのが楽しくて仕方ないのだろう。
毎日目を輝かせながら、ザ・女の子といった具合の、オチのない話を永遠に話し続けられるくらいに。
「たまには何かないの? 話したいこと」
と言われ、特になかった話題を無理矢理探して、先ほど発生したイベントの話をしたら怒られるなんて納得がいかない。
「可愛かったんでしょ? 別に興味なくてもヤるだけヤって別れればいいじゃない」
「そういう考え、改めたほうがいいよ」
僕は呆れながらコンビニで買ったコーヒー牛乳を一口飲んでからメロンパンを齧った。
「か、和人は本当に作る気ないの?彼女。セフレでもいいのよ?」
「ないですね。セフレならともかく、彼女なんて大切な人を作る気は無いし」
何故か恥ずかしそうにしながら聞いてきた莉緒さんにお構いなく僕は言った。そして小さく「そんな資格もない」と呟いた。
「資格?」
しっかりと聞こえてしまったようでバツが悪くなる。
コーヒー牛乳を飲んで口の中のメロンパンを胃の中に流して話題を逸らそうと頭の中を探った。が、なかなか話題が見つからない。
「ねー何の事を言ってるの? 資格って」
と逃げる僕を莉緒さんはしっかりと掴んだ。
「ねー何の事よ」
「何でもないですよ」
「今更隠し事しないでよ」
拗ねた調子で言うものだから、僕は諦めて少しだけと決めて話し始めた。
「僕も莉緒さんと同じなんですよ。会いたい人がいる。でも、僕が臆病なせいでその人とはもう会えない。もう失う怖さなんて味わいたくない。だから恋人なんて存在は一番興味ない。と言った感じです」
一気に言い終えた僕はストローに口をつける。ズズズっと中身が無くなった音を聞いて「もう少し多めの買えばよかったな」と誤魔化すように呟いて残りのメロンパンも口に放り込んだ。
何も言わない莉緒さんが気になり、目線を横に向けると不機嫌そうな顔をしてこちらを睨みつけていた。
風に揺れる、長く黒い髪が顔にかかり不気味さを増長させている。
「ねぇ、それって女?」
「え? まぁ一応そうですね」
そう言うとベンチから立ち上がりこちらを見下ろしながら涙目で怒ってきた。
「つまり、興味がないって言うのは昔の女が忘れられなくて、新しい恋人を作る気にならないってことね!」
そう言うと反転し、出口の方へ歩き出した。
僕は慌ててゴミをレジ袋に入れて、持ち手を結びカバンの中に詰め込んで莉緒さんを追いかける。
「待って。何でそうなるの?」
「だってそう言うことでしょう! 最低ね。含みを持たせながら昔の女の話をするなんて」
大きな声を出しながら歩くものだから、公園を散歩している老夫婦と親子連れの視線を集めてしまっている。
とにかくこのまま公園を出たほうがいい。恥ずかしくておかしくなりそうだ。
「違うって。わかったよ。話せばいいんだろ、全部。ちゃんと」
そう言うと莉緒さんは足を止めて僕の方を向いた。
涙目のか弱げな少女といった具合の顔をしている。
「本当に違うんだな?」
「違うって。そんな乙女キャラだったっけ?」
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