懺悔其の二十三 ここはセーブポイントじゃないから

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懺悔其の二十三 ここはセーブポイントじゃないから

 アタシの目の前に変な恰好したヤツが立っていた。  ツンツン頭でマントを羽織り背中に剣を背負っている男だ。  前に来た金の鎧着たオッサンと同類にしか見えないコスプレ野郎だ。 「すいません、データーセーブをお願いします」  アレか? マティアがたまに読んでる小説に出てくるVRナントカと勘違いしてるのかコイツ? 「あ、失礼。現実世界ではセーブなんて無いのか」 「ちなみに蘇生も毒消しも呪い解除もここじゃやってないよ、しかもここは教会だけど懺悔室だから」  男はニカっと笑うと無駄に白い歯が輝いた……ウザ! 「では、せっかくだし懺悔でもしていこう」  いや、セーブできないと分かったら帰れよ。 「僕はね最近まで、ドラゴンサーガというゲームに良く似た世界に行っていたんです。異世界転移と言う奴を経験し、またこの世界に戻ってきたんです」 「フーン」  男はニカっと笑うと無駄に白い歯が輝いた……やっぱウザ! 「信じていないね? 僕の背中にある剣は伝説の聖剣『エヴェイユの聖剣』と呼ばれる武器なんだ」 「それ、本物だとしたら、お前銃刀法違反だぞ」 「おっと! そうかこの世界だと銃刀法違反になってしまう。確かにそうだ、いやーそれは盲点でした」  まあ、コスプレにしか見えないけどな。 「そうだ、なら魔法をお見せしましょう」  魔法ときたもんだ。まあ、そんなもんが本当にあるなら見てみたいものだ。 「手品だろどうせ」 「ふふ、まあ上級魔法は危険なので初級魔法ですよ、それでもびっくりしますよ」  そう言って男は何かブツブツとつぶやき始めた、魔法の詠唱ってヤツかな? ほほう? 男の身体が光ってな凝った演出だな。 「――我が求めに応えよ、その煉獄から放たれる灼熱の――ナンタラカンタラ――」  ……詠唱長いなかれこれ十分は唱え続けてるぞ。これ本当に魔法だったとしても戦闘中にここまで長い詠唱じゃ実戦で使えないだろコレ。  しかもさっき初級魔法って言ってたよな、初級でこんなに長いのか? 「来たれ! 全てを焼き尽くせ!ファイアアロー!」  男がやっと魔法名を唱えると、突き出した男の手が光りその後にロウソクの火ほどの火がでた後すぐに消えた。約十五分待ってこれ? 「……え、終わり? 手品以下じゃん。これで終わりとかアタシの一五分を返せや」  アタシの言葉に悔しそうな顔をする男。 「く! この世界はマナの濃度が薄すぎるんだ……」 「しらねーよ、と言うか戦闘中に十五分も詠唱しないと使えないような初級魔法とかゴミじゃないかよ!」 「しかし、僕は本当に異世界を救った勇者なんだ……」  男が沈痛な面持ちで言った。 「あー、はいはい。分かったから勇者ってことにしといてやるよ。さっさと懺悔しな」  アタシは自称勇者を仮で認めてやることにした、なんだかんだでアタシってお人好しだったんだな…… 「僕は魔王を倒し人々を救ったが、力及ばず救えなかった命も多かった」 「まあ、一人じゃ限界があるよな。アタシも一人でこの教会全部掃除してとか言われたら嫌だしな、そのために役割分担して掃除するんだし」 「あのー、すいません。掃除で例えるのやめていただけます?」 「あー、すまない。 で、先話してくれていいよ」  アタシが先を促してやる。  すると何故か、自称勇者はニカっと笑う。そしてやはり無駄に白い歯が輝いた……殴りたい。  そして男はまた話し出した。 「あの時もそうだった、魔王軍四天王の一人である()()()()との戦いも。ボンビスの卑怯な罠にはまってしまい、救えたはずの幼い兄弟を助けられなかったことも、あの時僕にもっと力があればと思うと悔しくて……」 「ボンビスはないわー。なんだその名前、金持ってないですと言わんばかりのダセェ名前は」 「あのー、魔王四天王の名前に茶々入れるのやめていただけます?」  いや、だってダサいんだもん。あとコイツの話面白くないし。 「えー、だってボンビスだぞ。お前、どーせお前もボンビスって名前聞いて笑っただろ」 「……」  自称勇者は目を逸らした。コイツきっとボンビスって名前で笑ったぞきっと。 「……そしてあの出来事でも、四天王の一人である()()()()()()が改心し僕達に力を貸してくれると言った瞬間ゼシンターツが魔王に殺されたんだ、あの時だって僕がもっと早くに魔王の存在に気付いていればと思うと」 「プフ! ゼシンターツってなんだそれ、全身タイツかっつーの」  魔王軍四天王の名前酷いなおい。 「ぷくくく……気付かないふりしてたのに、全身タイツって言うのやめてくれます、アイツ見た目もなんか全身タイツ着用してるように見えるんですよ」 「魔王軍ひでーな、アタシも見てみたいよ」 「と、他にも懺悔したいことは色々あるんですよ」  自称勇者は笑いをこらえながらそう言った、説得力ないし。  こうしていつの間にかこの自称勇者の懺悔から何故か冒険譚を聞くことになっていた。 「そして僕の最後の一撃を受けて魔王は倒れたんですよ」  正直、魔王軍のダサイネーミングセンス以外は正直あまりにもつまらなかったので、ほぼ聞き流していた。 「その後、役目を終えた僕は元の世界、すなわちこの世界に戻ってきたんです」 「そっかー、大変だったな」 「ええ、ですが良い経験にもなりました」 「たださ、アンタの話はヒネリが無さ過ぎだな。無難すぎて面白みに欠けるんだよね。それじゃあ一次選考も通らないかもな」  アタシは自称勇者の話の感想を述べてやった。  すると自称勇者が不機嫌そうな顔をして。 「だから作り話じゃないです! 本当の事ですから」 「いやー、流石に無理があるだろ。ゲームと同じような世界があってそこに行ってたとか。都合よすぎじゃない? ゲームの知識があったからってどうにかなるものなのか?」 「……う、まあ。そうなんですけど」 「だろー。正直、異世界とかに飛ばされて行き成りそんな適応できるわけないじゃん」 「……いや、でも夢じゃないし、この格好だって最後に魔王との戦いで装備してた物だし」  妄想癖もここまで来ると大したもんだ。  アタシが異世界に飛ばされたらきっとどうしようか途方に暮れちゃうね。 「まあ、次はもっと面白い話考えてきなよ、そのときゃまた聞いてやるよ」 「え? あ、はい。いや、でも本当の話だし……」  自称勇者はブツブツと呟きながら懺悔室を後にした。  後日、この自称勇者は自分の体験をもとにした小説をネットの小説サイトに投稿していた。  マティアいわく『クソ小説』という評価だったそうだ。
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