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懺悔其の十九 チェケラウ
「いやー、ないわ。これ無いわー、今の小学生って頭おかしいのか?」
アタシはとあるネットのサイトを見つつそう呟く、小学生のなりたい職業って記事だ。
男の子はサッカー選手や野球選手に医者、女の子はパティシエ、看護師、医者この辺りは分かる。
でもさ、ピーチューバー……これは無い!
言いたくは無いがコレ職業なの? 趣味でピーチューバーやってる人なら良いけどコレを職としてやってるとか無いわ。
前にピーチューバーがここに来たけどアイツ、クズじゃん。
そりゃまともな人も多いけど正直無いわ、アタシが親なら自分の子供が将来ピーチューバーになる! って言ったら泣くね。
アレだピーチューバーのほんの数パーセントの売れてる人ばっかピックアップするから儲かる職だと思っちゃってるんだろうなぁ。
いやいや、アタしゃ日本の将来が心配だよホント。
さてアタシが日本の未来を憂いていると扉が開き人が入ってきた。おや? 今日は二人同時だね女性と男の子だ親子だねこれは。
母親らしき人物は観た感じ三十代前半くらいで服装もグレーのワンピースにベスト。男の子は小学三、四年生くらいかな?
「どうされました?」
アタシが最初は修道女モードで対応する。最近思ったけどアタシのこのモード終わるの早すぎるんだよねぇ。
「シスター、相談といいますかこの子の説得を手伝ってください」
「説得ですか?」
新しいパターンだが……正直関わりたくない雰囲気がする。だって子供の方が何かサングラスして口をクチャクチャさせてるし、首に何故かヘッドフォンかけてるし、帽子のつばを後ろに向けてかぶってるし……
なんつーか勘違いしたDJって恰好なんだよねぇ。
「それで、説得の内容は?」
母親は少し興奮した様子で少し声が裏返りながら話し始めた。
「この子の恰好を見ていただければ分かりますが。この子最近変なものに憧れてるんです」
「その格好となるとDJですか?」
アタシがそう言うと男の子は首を振りつつリズムを取ってるのか? 良く分からん動きをしつつ。
「ノンノンン、惜しいが、DJ、じゃないゼ」
「……」
なんか頭のおかしいラッパーみたいな喋り方しつつ両手でアタシを指さした。
「DJじゃなくラッパーでしたか……」
母親は少し恥ずかしそうな顔をして。
「いえ、ラッパーでもなく、うちの子が将来ピーチューバーになりたいなんて言い出しまして……それでやめるよう説得してほしいのです」
「フー、チェケラウ!」
「……帰ってもらっていいですか?」
何がチェケラウだ! お前なんぞに注目するか!
母親は今度は泣きそうな顔で、哀願するように言ってきた。
「お願いします! 助けてください、他の場所で相談しても親子で話し合ってくださいとしか言われないんです!」
「アタシもそう言いたいです! 正直言いますとそのお子さんと関わり合いたくないです!」
「オイオイオイ、アンタ、なかなか、酷い事、言うね! フォー!」
「普通に喋れよクソガキ!」
いけね、母親に睨まれちゃった。
「そもそもですよ、この子ピーチューバーを勘違いしてませんか?」
「私もそう思います」
「オー、そいつは違うな、ほっほ、コレから俺も、ピーチューバー、チェケラウ!」
「やかましいわ! なにがチェケラウだ! お前それ言いたいだけだろ」
どうするんだよこの子、将来もう終わってるぞ。
「それで説得するにもいつからこんな調子なんだ?」
「半年ほど前からです」
「影響された動画があるって事だね」
「オー、ラップで実況、ゲーム配信、そんな番組、ヨー」
うぜぇ。とりあえずラップでゲーム実況する番組のようだな。
「前にさピーチューバーがここに相談に来たんだけどさ、それはそれはクズみたいな人間だったぞ」
「フー、俺と、ソイツ、ノンノンノン、大違い!フォー」
「お母さんコイツ殴っていいですか?」
「すいません、それは最終手段でお願いします」
殴るのは止めないのね。
「そもそも、お前のそのネタはすでに誰かがやってるんだろ? 同じことしたって売れないぞ」
「そうですよ、このお姉さんの言う通りよ」
「オー、そんなことは、ナイ、チェケラー!」
こいつ絶対にチェケラウ言いたいだけだろ。
「あー、お前正直その口調も似あってないから、何というか控えめに言ってもダサい」
「う、ポォー!」
「ポォーってもうジャイケル・マクソンじゃないの!
母親からも突っ込まれてるぞ、もはやこのガキに味方はいないようだ。
「まったくこの子は……ピーチューバーなんて職業じゃないのよ! 福利厚生とか無いでしょ」
「リアルすぎる攻撃だな」
福利厚生か……シスターにもあるの? そもそも給料と呼ばれるものが無い気がする……他の修道会のシスターなんて携帯すら持ってないんだぞ。
でもうちの教会って色々おかしいんだよなぁ。うちのシスター全員スマホ持ってるし、シスターケイトですらガラケー持ってるからなぁっと、話がそれた。
「この子は、本当にそんな怪しいピーチューバーなんかで一生暮らしていけると思ってるの!」
「オー、チェケラー」
すでにアタシの出番ないんじゃないかな? 母親なんか吹っ切れてるし。
「ただでさえお父さんのお給料下がってるのよ! 現実みなさい夢なんてみてないで」
「おー、いえー、ちぇけらう」
「チェケラウってお前意味わかってないだろ」
もはやガキは親とアタシにボコボコ言われてる始末、親が一番言ってるけどね。
「まあ、アタシのとこに来たピーチューバーなんて警察に捕まったしな」
「ほら見なさい! 犯罪者予備軍みたいなものじゃない!!」
「オー、マンマミーア」
犯罪者予備軍って……流石に全員がそうとは言わないけど、実際予備軍みたいなヤツは多いよな。
そしてチェケラウじゃなくなったけど、何言ってるんだコイツ?
「もし、ピーチューバーになりたいのならゲームやオモチャに電話料金も自分で払いなさいよ!」
「おー、チェ、ケ、ラウ」
おーっと、子供には一番有効と思われる宣言が来たぞ、そしてガキの方も大ダメージだ。
「もう! 本当にもう! 家に帰ってゆっくりと話し合いましょう!」
「ちぇけらう……」
母親は子供の手を引っ張って既に死にかけてる子供を連れて出て行った。
「最初から家で話し合っててほしかったかなー」
ピーチューバーにはロクな思い出が無いなぁ……
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