懺悔其の三 何で懺悔しに来た?

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懺悔其の三 何で懺悔しに来た?

   さて、今日はどんな人が来るのか?  あの娘ストーカー親父みたいな濃い人は勘弁してほしい。  アタシがそう考えてると扉が開いて誰かが入ってきた。  良く言えば恰幅の良い、普通に言えば太ってる、悪く言えばデブなオバちゃんが今回の迷える子羊(ファッキングシープ)のようだ。  問題はなんかさー、歩いてこっちに来る間にも右手が何かを鷲掴みしてるような手つきでドアノブを捻ってるような動作させつつこっちに来るんだが……ああ、もうすでに嫌な予感がしやがる。  オバちゃんは髪の色が薄い紫になっててパンチパーマという、なんつーか『ザ・オバン』という井出立ちをしている。 「どうされました?」  アタシがオバちゃんに声をかけるとオバちゃんはドカって音を立てながら椅子に座る、椅子は大丈夫か? 「ちょっと聞いてよ! あそこの坂を下ったとこにある店なんだけどねぇ。あそこ釘絞り過ぎなのよ」 「はい?」  このオバン何言ってやがるんだ? 店で釘を絞ってる……あぁ、パチンコのことかよ。 「申し訳ないですが、ここは懺悔室です世間話ならよそでお願いします」  アタシがそう言うとオバちゃんの右手が高速で行ったり来たりする、正直怖い。 「いやー、そうだったわね、世間話しにきたわけじゃないのよ」 「では、どんな御用でしょうか?」 「えーとねぇ、なんだったかしら」  オバちゃんは左手でメモを取り出してみている、こんな所に来てやることなんてそこまで多くないだろ?  しかもずっと右手がノブを回すような感じで動いてるし。 「ああ、懺悔よ懺悔。懺悔しに来たのよ」 「はぁ……何でメモ見ないと思いだせないんだよ」 「おばちゃん興味ない事って覚えてられないのよ」  まあ、興味ない事って覚えてられないよなそれは分かる、けどさー 「興味ないなら懺悔なんてしに来るなよ……」 「でも、懺悔すると色々許されるのよねぇ?」 「程度にもよりますけどね、まあいいや。それで懺悔の内容は?」  手の動きと釘を絞るってワードで何となく察しは付くけど、一応アタシはオバちゃんに聞いておく、オバちゃんが笑いながら答えた。 「いやー、おばちゃんね趣味がパチンコなのよー」 「そのキモイ手の動きで大体は予想できるよ」 「まあ、アナタ探偵さんかなにか? おばちゃんここ教会だと思ってたけど探偵事務所だったの?」 「アタシャシスターだよ、なんで懺悔室に探偵がいるんだよ」 「それもそうね」  話の進まないオバちゃんだなぁオイ。 「それで貴女の趣味と懺悔に何の関係が?」  パチンコが趣味の懺悔とか簡単に想像できるんだがな、どうせパチンコが止められないって話だろうさ。 「おばちゃんね毎日二十八時間はパチンコがしたくてねぇ、娘の結婚資金を使いこんじゃったのよー、アハハハ」 「おい! ババアそりゃいかんだろ! なにそんな少し醤油こぼしちゃった的なノリでとんでもないこと言ってるんだよ! しかも何か一日の時間が多いし!」 「うちの娘、何故かカンカンでねぇ、いいじゃないのねぇ結婚資金拝借したくらいでそんなに怒らなくてもねぇ」 「普通怒るだろ、それで幾ら使ったんだよ」 「え? そうねぇ百五十万くらいかしらねぇ、アハハハ。結果はすっからかんよ二百にして返す予定だったのにねぇ」  ダメだこのオバちゃん、ただのクズだ……やはりパチンカーにはロクなやつがいねぇ。 「で、娘に金返せって言われちゃってねぇ、オバちゃん困ってるのよ懺悔するからここでお金貸してちょうだい」 「何で懺悔しただけのヤツに金貸さないといけないんだよ!」 「懺悔したら許されるんじゃないの?」 「そういうのは許されねーよ!」  このオバちゃん相当クレイジーだぞ。 「う……うぅ……」  オバちゃんが突然右手を押さえて呻きだした……なんか中二病のヤツが包帯巻いた手を押さえて「くぅ、力が……」とか言ってそうな感じなんだが 「うあああ……」 「おい、どうしたんだよ」 「チンジャラチンジャラ……安西(やすにし)先生パチンコがしたいです」 「おい!ルビ振らないとわかんねーネタやるなよ!!てかヤスニシってだれだよ!」  禁断症状出はじめてるじゃねぇかよ……しかもさっきより右手が高速で動いてるしキモイよマジで。 「これでおばちゃんは許されたのかい?」 「いや全くこれっぽちも許されてないし、そもそも懺悔してねぇし」 「だったらどうすれば許されるんだい」 「娘に金返してパチンコやめろよ」  アタシの言葉に顔を青ざめるオバちゃん、そこまで金返すの嫌なのかよ 「パチンコやめろって、ここの教会は邪教か何かなのかい! それはね、おばちゃんに死ねと言ってるのと同義語だよ!」 「じゃあ、死ねよ」 「なんて酷い人なんだい! 鬼! 悪魔! 安西(やすにし)!」 「だから安西って誰だよ!」 「おばちゃんの家の三つ隣の家の人だよ!」 「お前、安西さんに謝れよ!」 このオバちゃん実は安西さん嫌いだろ。 「オバちゃん、アンタとにかく赦されたいなら娘に金返してからパチンコをしばらくは封印することだよ」 「仕方ないねぇ、娘に金返すにもお金調達しないといけないからパチンコで稼がないと」 頭沸いてるのかこのババア? 「それじゃ本末転倒だろうが! パチンコ以外で稼げよ!!」 「シスターなのに説教ばっかするんだねぇ」 「ここはそういう場所なんだよ!」 「まったく、じゃあ、安西さんのお宅の居間にあるタンスの下から二段目の板の下から拝借してこようかねぇ」 ――え? 「おいおい! ババア! アンタ頭おかしいだろ! そしてなんで安西さんとこのお金のある場所知ってるんだよ!」 オバちゃんは自分の言葉に納得すると席を立った。 「それじゃあ、オバちゃんちょっと用事が出来たからもう行くね。懺悔しても許されなかったねぇ。まったく」 オバちゃんはブツブツ言いながら懺悔室を後にした。 「あれが真性クレイジーってヤツかぁ……もう関わりたくないな。安西さん戸締りちゃんとしてるかなぁ……」 こうして今日の懺悔? は取り合えず終了した。
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