【自転車落語】カーボン怖い

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注意; このお話は自転車落語シリーズですが、今回少しロードバイクよりのお話です。 普段ロードバイクに乗らない人はなんのことやらわからないかも知れません。 その辺りをご納得の上で読み進めていただけると幸いです。 【自転車落語】カーボン怖い ここはあるロードバイク乗りが集まる自転車屋。 ここのところ雨続きで、どこかに出かけることもできない。 そんななか常連客が集まって下らない話をしながらだべっています。 「そういや、自転車に乗ってて怖い思いをしたことなんてあるかい?」 「俺は怖いと言ったら、どこまで続くか分からないくらい長い登り坂だな」 「登り坂が怖いかい?」 「ああ、足がつりそうになるくらい頑張って登っているのに頂上かと思ったら、まだまだ登りがある時なんて怖くなってくるね」 「そうだな、いつまで続くか分からない登り坂は怖いな」 「俺は逆だな、下り坂が怖い」 「下り坂かい?」 「ああ、怖いね、勝手にスピードが出て曲がりきれないんじゃないかと思うようなカーブがあるとゾッとするね」 「ああ、たしかにそれは怖いな」 「俺はトンネルが怖いな」 「トンネル?トンネルが怖いかい?」 「急に暗くなるし音が反響してフラフラしないか?」 「あー、たしかにそんなふうになるかも知れんなー」 「俺は後ろからギリギリのところを幅寄せして追い越していくトラックが怖いな」 「たしかにアレは怖いな」 「オイオイ、さっきから聞いてたらなんだなんだ」 「登り坂が怖いだぁ?登り坂なんざダンシングでホイホイホイって登ってけばいいだろ?何が怖いんだよ」 「それとなんだよ、下り坂が怖いなんて。下りなんてスピードがでてスパーッと走れて気持ちいいじゃないか」 「あとトンネルが怖いだぁ?」 「俺なんかトンネルの中が真っ暗でも全然怖くねえや なんなら夜中に目をつむって運転してらぁ」 「それと幅寄せしてくるトラックが怖いだぁ? 俺なんか逆にトラックを追い抜いて幅寄せしてやらぁ!」 「すごいやつだな…」 「じゃあ、お前は怖い物は何もないのか?」 「ああ!俺は怖いもんなんか何にもねぇ!」 「怖いもんなんか…そういえばひとつだけどうしても怖いものがあったぜ…」 「あるのかい?」 「ああ、言ってみなよ」 「……ボン」 「なんだって?」 「…カーボンが怖いんだ」 「カーボンって軽量フレームとか使われている高級素材のアレか?」 「ああ、あのカーボンの妙に軽いところとか、網目模様とか、独特の光沢とか アレがなんとも言えないくらいに怖いんだ…」 「へぇ、変わった物が怖いやつがいたもんだなぁ」 「じゃぁ、カーボンフレームも怖いのか?」 「こわいよ~」 「カーボンホイールも?」 「やめてくれ~」 「カーボンフォークなんてのもあるな」 「俺はカーボンの値段の高い機材ほど怖いんだ」 「変わってるな…」 「ああ、こわいこわい…。お前らがそんなこと言うから寒気がしてきたじゃないか。 俺は奥の部屋に行って休んでるぜ…」 「あらら、奥の工房の方に閉じこもっちゃったよ…」 「しかし、世の中には変わったものが怖いやつってのは居るもんなんだなぁ」 「それよりも、ちょっとアイツからかってやろうぜ」 「さっきから俺たちが怖い怖いって言ってたものをコケにしやがったんだ。 ちょっとくらい怖がらせてもいいだろう」 「そうだな、普段から俺もちょっと気に入らなかったんだ」 「やっちゃうか?」 「やっちゃおう」 「よし、アイツが部屋から出てきたところで怖い思いをするように入り口にカーボンの機材を山積みにしておこうぜ!」 「それいいな!俺は家から買ったばかりのカーボンのフレームを持ってくるぜ」 「オイラもこの間買ったカーボンフォーク持ってくるわ」 「俺は今度のレース用に買っておいたカーボンの決戦ホイール持ってくるわ!」 そんなこんなで 閉じこもった部屋の入り口には カーボンフレーム、カーボンのフォーク、カーボンホイール カーボンクランク、カーボンのハンドル、カーボンのシートポスト カーボンのボトルケージ、カーボン製のバーテープなんて小物まで カーボン製の機材が山のように積み上がっています。 「そろそろ、アイツが部屋から出てきて気絶でもしている頃かな?」 「みんなで見にいこうぜ!」 部屋の前まで来ると山積みにしてあった機材がなくなっています。 「あれぇ?だれかココに置いといた機材を片付けたか?」 「いや、誰もいじってないはずだけど」 「おかしいな…」 皆で不思議がっていると 工房の中から何やらカチャカチャと音がするじゃありませんか 気になって、そーっと覗いてみますと 部屋の中では「怖い怖い」と言いながら嬉しそうにカーボン機材のロードバイクを組み立てているじゃありませんか 「しまった!あのやろうカーボンが怖いなんて嘘だったんだ!」 「このやろう!だましやがったな!」 「ふてえやろうだ!」 「お前、本当は何が怖いんだ!?」 「ここらでひとつデュラエースの電動コンポが怖い」 お後がよろしいようで…
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