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季節は春で、今日は少し暖かかったけれど。桃花さんはベストを着ないで、カッターシャツ1枚。スカーフは着けているけど、ボタンが1つ、開けっ放し。スカートも、すごく短いし。側に居ると少しだけ、照れくさかった。
時間稼ぎに飲み物の仕度を申し出たけれど、姉に止められてしまった。
「飲み物なら、お母さんが準備してくれるから。あんたは早く、教科書持ってきなさい」
姉を怒らせると怖いので、渋々勉強道具を持って、姉の部屋へ向かった。
飲み物はもう、準備されていた。普段は出ない、お茶菓子まで。姉の友達が来ることは、母も知っていたようだ。
知らなかったのは、僕だけ。
高校生になってから、こういう事が増えた。少しずつ、姉との距離が離れていく。僕はそれを寂しく思う。
姉がモデルの仕事を始めた事も、姉が今どんな仕事をしているのかも、僕はよく知らない。たぶん、クラスの女の子達よりも。
「どしたのー?勉強、難しい?」
桃花さんが僕の教科書を覗きこみ、髪をかきあげる。フワリと甘い香りがして、僕はドキッとした。緊張して、後ずさりしてしまう。
「……避けなくても、いいじゃん」
桃花さんの拗ねたような顔が、可愛らしくて。僕はまた、恥ずかしくなる。
「桃花。それ、思春期ってやつ」
「お姉ちゃん!」
そんなこと。わざわざ、言わなくても良いのに……。
「えー、かわいいー」
今ちょっと笑われた気がする。
今日は暑いからと、姉が部屋の窓を開けた。五月の中旬とはいえ、夕方の風はまだ少し冷たい。
僕は自分の羽織っていたパーカーを桃花さんの膝にかけてあげた。短いスカートだから、冷えると思って。
「思春期~」
桃花さんがからかったので、僕はちょっとだけ、ムッとした。「女の子は体を冷やしちゃいけない」って、母から聞いただけなのに。
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