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変装
姉に頭をガシッと掴まれ、ロングヘアーのウィッグを被せられる。その上から、姉のキャップを目が隠れるまで、ギリギリと被せられた。
「痛いよ」
「ちょっとだから、我慢してて」
パーカーの代わりに、姉の上着を羽織る。下は制服のままだし。こんな雑な変装、男だってすぐにバレるよ……。
さっきの女の子達に見付かったりしたら。色々、終わりだ。
「お姉ちゃん。こんな変装、絶対バレるよ……」
「わかってるわよ」
何をわかっているのか、姉は仕上げに、真っ赤な口紅を押し付けた。唇に、ベタベタした嫌な感触が残る。
「気になるなら、黙って下向いてて。タクシーはもう、呼んであるから」
ここまでされたら、もう、何も言えない……。
「桃花……。今、帰るからね?」
姉が優しく桃花さんに声をかける。桃花さんは、弱々しく頷くだけ。昨日とはまるで、別人のようだ。
「一階まで、我慢してね?」
姉が桃花さんに肩を貸して、椅子から立ち上がらせる。桃花さんの足下は危なっかしくて、僕も肩を貸す。またあの、甘い香りがした。
「蓮。桃花の事、よろしくね……?」
姉が心配そうにエレベーターまで見送る。そうか。ここからは、僕が一人で桃花さんを連れていくんだ。急に緊張が走る。
狭いエレベーターの中は、桃花さんと僕の二人だけ。エレベーターの中に、甘い香りが広がる。
肩に身を任せる桃花さんの体はは、水風船みたいに柔らかい。力任せに抱えたら、壊れてしまいそう。
女の子とこんなに近くに居るのは初めてで、僕はドキドキしてしまう。
桃花さんは、苦しがっているのに。早く、一階に着いてほしい。
──チーン
エレベーターを降りてすぐに、目の前のタクシーに飛び乗る。桃花さんを座らせ、僕は助手席に乗りたかったけれど……。
「いかないで……」
青い顔の桃花さんに腕を掴まれ、大人しく隣に座ることにした。
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