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「真姫ぃ、今日はニシカワ連れてないじゃん」
「“いってらっしゃいませ、お嬢様”“キラリーン”を毎朝楽しみにしてんのに!」
「真姫さま、ご機嫌よう」
などの挨拶はしたことがありません。
世の男性方、夢とロマンを壊してしまい申し訳ありませんが、こちらは高級住宅が立ち並ぶ一等地・葉束丘にて百年の伝統を誇る、幼稚舎から大学部までエスカレーター式の名門・私立葉束丘女学園の高等部です。
真っ白のセーラー服ときらびやかな超お嬢様学校というイメージから、世間では“葉束丘の白薔薇”と呼ばれています。
名付けたヤツ、頭ヤバいんじゃない?
「いらないから捨てちゃった。つかナニ“キラリーン”って」
「や、なんかニシカワの笑顔ってそんな音聞こえる」
「聞こえないし!」
あんなの、ただの猫っかぶりです。
長年一緒にいても気が付きませんでしたが、あの元執事の立ち居振る舞い、優しげな物腰、柔らかい微笑みなど全て演技であったと、不覚にも今更思い知らされたのです。
「捨てたって! お気に入りだったくせに」
「ゼータク! うちなんか、ウルサイばあやだし」
先程からお話をしている二人は私の友人でして、どこに出しても恥ずかしくないような名家のご令嬢です。
「ならあげよっか?」
あたしの言うことしか聞かないように躾けてあるけど、それでもイイ?
もうおわかりかと思いますが、“お嬢様”に生まれ育って身に付くのは知性、教養、マナー、そしてオンとオフの切り替えです。
常に監視されているような生活の中で、これが上手くできなければストレスで窒息してしまいます。
「ちょうだい! 交換して!」
「でもアイツ、最近は筋肉痛が3日後にきます、とか言ってたけどイイ? 結構オヤジだよ」
すぐに思いついた台詞は言わずに、元執事の小さな悩みを暴露してやりました。
無駄に、と付け加えたくなるくらいに白い肌、という見た目を裏切らない運動不足が祟ってのことでしょうが、いい気味です。
「あはは! 超ヘタレ!」
は? ニシカワをヘタレっつっていいのはあたしだけなんだけど。
「そういえばさ、ニシカワって下の名前なに?」
ヘタレ呼ばわりしなかった方の友人が急に尋ねられ、私は思わずニヤリとして答えました。
「サブロー。西川三郎」
「フツーだし! セバスチャンとかじゃないんだ! 上は一郎とか?」
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