マリー

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 確かに顔は少しばかり綺麗ですし如何にもそう呼ばれていそうですが、憎らしい程に艶々した黒髪の純日本人なので、それはありえません。 「ううん、長男が一誠(いっせい)で次男が双星(そうせい)」  ご両親、三人目でネタが尽きた……というか流石に“三世”とはいくら頭を()ぎっても付けられないですよね。  愛情いっぱいに育てられたようです。  それはさておき、なぜ機嫌が悪くなったのか、理由は自分でもわかりますので余計に腹立たしいのです。  なんとも口惜しいことですが、私は元執事を男性として慕っていました。  それで昨夜、もうじき花も恥らう十八歳になる乙女である私が、意を決して告白をしたのです。  黒縁眼鏡を手ずから外して言いました。 「ニシカワ、好き」    普段は私の一挙手一投足に一喜一憂、困っては苦笑いのカワイイ執事でしたのに、この時なんと返答したと思います? 「お戯れを。お嬢様」  それも眉尻一つも動かさない程の真顔で、です。 「お帰りなさいませ。お嬢様」 「なんでいるの? クビだってば」  学園の門の前、マリーの新型を停めて迎えたのは元執事でした。  私が思い切り張った頬が少し腫れているのに、何事も無かったような風情の声を出す横を素通りしました。 「お嬢様、コレを使わせていただきます」  手にはヨレヨレにくたびれた、元はピンクだったものが薄まったような色で、チケットサイズの紙。  なんとなく懐かしさのある、見覚えのあるそれを、私は取り上げました。 「“なんでもゆうこときいてあげるけん”? 何コレ。キモッ」 「肝ではありません。お嬢様の六歳のお誕生日に下さったのです」  自分の誕生日にプレゼントすんな、六歳のあたし。  “肝”とか本気で言う部分には反論する気すら失せ、過去の私を恨めしく思いながらも徐々に思い出しました。  毎日のように家庭教師に叱られていても、脱走を企てていたのが露見して蔵に閉じ込められても、つまみ食いをして夕食抜きという非道に遭っても、いつでも味方して……でも庇う勇気はないから一緒に怒られてくれたニシカワに感謝を込め、手作りのチケットを渡したのです。  それを大事に持っていたなんて。
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