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「今この場で我々は死んだ二十九人に報いる為にも、一致団結せねばならないのだ! 仮面の言い残した通りディナー会場に行くか、何が待ち受けるかもわからない場所は危険として今暫くここで方針を固めるか! 多数決に参加するのだと言っている!」
「真っ赤だな、カジカ。俺の首輪と、お揃いだ」
「聞き給えッ!」
ヤロは怒鳴られて尚も男の話を聞かずに俺の血だらけのシャツを摘んで、喉奥を鳴らす。
誰のせいでこんな必要以上に斑シャツになったのか、コイツはわかっていない。
そうなれば当然、男の苛立ちはヤロに構われ隣に座る俺へと向けられた。
「君ッ、彼を何とかしてくれッ。不本意だがッ……、ふう……会場を出るなら、彼の力が必須だと言える。私は檜、君の名前は?」
「ええと、俺は……河鹿です。あの、檜さん。彼、ヤロがどうかしたのですか?」
「ハァ……河鹿君、君はまともみたいだな。ヤロと言ったのか、まったく、彼は君が目覚めるまで一言も話さなかったのだ」
「う……」
頭痛と吐き気は少なくなっても未だに気だるい体に、より重みが増した気がする。
あれからどうしてこうなったのかもわからないので、まずは状況を教えてもらうことになった。
檜さんは自分の担当する海外支社を視察すべくハワイ行きの飛行機に乗って、気がついたらこのパーティーホールにいた。
そして周囲の様子を観察し、自分の状況や人々の意見を聞いて現状をまとめていたところ、あの仮面の余興が始まったのだ。
乗客の中には家族や友人が殺されてしまった者もいて、嘔吐したり体調を崩したり泣き喚いたりと阿鼻叫喚の最中。
ヤロがやってきた。
ヤロは俺が言ったこと、乗客をライオンの口に集めて残りのカウンターを回すと言うミッションをコンプリートすべく、まずは近くに転がっていた死体を抱えて投げ入れた。
生きている人間を運ぶのは骨が折れるだろうし、逃げられると考えたらしい。
時には仮面の獲物を奪ったりしたものだから、ヤロのおかげで難を逃れた者もいた。
けれどヤロは、その仮面を殺して奪ったのだ。
檜さんも他の幾人かも逃げ惑う中それに気がついた。
ヤロだけは仮面に襲われても問題なく、カウンターを回す為に只管死体を運んでいる。
普通に思うまま行動しているなんて。
大事な人や自分の命を守るため、勇気ある乗客が数に頼り五人で囲んだりもした。
しかし掴みかかる手が一人も届くことなく、瞬く間に死体となってしまった謎の仮面相手にだ。
いつの間にナイフを手にしていたのか、あっさり追跡者を殺すコイツが初めからそうしていれば。
死体を運び終えてカウンターが回りきり、ファンファーレが流れた時。
ライオンの口元から血塗れで意識を失う俺を運び出すヤロを、死に物狂いで逃げ切った乗客達は一心に見つめた。
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