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『オメデトウゴザイマス、イキノコッタミナサマハワンステージウエへドウゾ。ヨキョウハタノシンデイタダケタデショウカ? カイジョウゼンポウノ、トビラダケヲヒラキマシタ』
『トビラヲヒラキ、ミギヘミチナリ。スルトオオザシキガゴザイマス。ユウショクヲオタノシミクダサイ』
『生きる』
ヤロと殺し合わず生き残った仮面は、二人だけだった。
彼らは仲間の死に何も感じず、淡々とそれを説明して去って行った。
血と悲愴に塗れた会場に、突然死の恐怖を与えられた乗客を残して。
その後、檜さんを始めとしたリーダーシップを取れそうな精神的にタフな乗客が集まり、各々の状況把握を兼ねて生き残りを分け、チームを作ることにしたらしい。
七十一名のうち言うことをちっとも聞かない、行動から見てあまり善良な人間には思えないヤロを除いて、十人ずつのグループを七つ作る。
なるべく知り合い同士の方がみんな安心するだろうから、そうした。
結束が必要な場面はありそうだからだ。
番号をつけてリーダーを決め、グループの方針はリーダーがまとめる。
それをグループの意見として定め逆らう事は許されない。
誰かが逆らえば方針が意味を成さないし、和が乱れる。その場合は排斥も辞さない。
普通に全員が一緒なら……七十一名を完全に纏めることはできないだろう。
事実余興のゲームで俺の至った結論に気づいた人は数人いたそうだ。
けれどどうしたってみんなに伝えることも、自分が行くこともできなかった。
それを思うとこの方法は、効率的で上手い。
「他人なら見捨てる……友達なら見捨てない、その方が結束しやすい。裏切り、隠蔽、可能性より生存率や精神的安寧を取った。もしそうでなければ、離れたくない相手が居る? 可能性、メモ。友達だから殺す場合も、メモ。観察。記憶……」
「? 河鹿くん、なにかブツブツと言ったか?」
「うん? いえ、なにも言ってません」
「そうかね? ええと、兎に角我々はそう言う方法を取ってバラバラに殺されるのを回避し、なるべく協力することになったんだ。ふふん、この案は宇崎くんが考えたのだ」
「うさきくん?」
ぼうっと現状を把握していると、得意げな檜さんは少し離れたところで友人なのか女性二人と話している、高校生位の若い男の子を指さした。
「……え? 俺呼ばれてる?」
「そうとも。宇崎くん、意識を失っていた最後の一人が目を覚ましたぞ!」
「! よ、よかった! 美優、勇気、ちょっと行ってくる」
檜さんが声を掛けると男の子、宇崎くんはほっと安心したように笑顔を見せて友人達に声をかけ、俺の目の前に小走りでやってきた。
俺よりは低いが高校生にしては高めの身長に、ティーシャツとジーンズ。
人懐っこい笑顔と明るそうな性格に、見ず知らずの俺を心配するお人好し。
モデル級、とは言えないが整った容姿もすぎることなく、至って平凡な好青年に見える。
嫌味な位スタイルがいい美形の狂犬・ヤロにまとわりつかれている俺は、その普通な宇崎くんに一気に安心して拝み倒しそうになってしまった。
はあ、安心する。
もう俺、ずっと宇崎くんを眺めていたい……。
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