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精霊舟
夏の噎せ返る様な海の香りは嫌いじゃない。
冬の澄んだ海ではなく、緑に近い海を見ながら私はそう思った。
昔はこんな海でも大勢の子供が泳ぎ、その声が絶えなかったこの町も、今ではひっそりと波の音を奏でているだけだった。
波が立つ度に、繋がれた舟がカコンカコンと船体を擦る。
そして遅れて波音が立つ。
そんな様子を日がな一日眺めていた。
防波堤に座り、そんな事をしていても誰も気にかけない。
そんな時間の流れが違った町だった。
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