精霊舟

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岸壁沿いの道を歩く。 何人かの人に出会ったが、知った顔はなかった。 何にもない漁師の町。 夏のこの時期は朝早くに漁に出かけ、昼過ぎには船を岸壁に着けて家に帰る。 既に飲んだくれて寝ている者もいるだろう。 高校を出ると、若い奴は皆、この町から出て行く。 早い奴は寮に入り高校に通うので、親元を離れるのは早い。 そのため、この町に残る若い奴は皆無に等しい。 私もその類で、高校卒業と同時にこの町を出た。 海の近くまで迫る山では油蝉がけたたましい声を上げ、最後の数日を拒む様だった。 目の前が海で後ろが山。 自然しかない町で、娯楽など一つもなく、暇があれば魚を釣り、山に入りカブトムシやクワガタを採っていた。 あの頃は一日中、海に釣り糸を垂らしていても平気だった。 今では一時間もやると飽きてしまうかもしれない。 それ以前にこの暑さにやられてしまいそうだ。
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