午後七時

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 夜半過ぎならばちょうど月も沈む時分で、空も暗くなる。城址は高台にあり、東側の空が特に大きく開けている。流れ星を観測するには理想的な条件のはずだ。  いつもより幾分早口になってそう説明すると、カザトはしばし黙り込んだ。  やんちゃなカザトと優等生のミクリの組み合わせは、大人の目には不思議なものに映るらしい。だが、カザトはただの乱暴者ではない。弱い者いじめはしないし、しかるべき理由のある決まりを面白半分に破るようなこともない。誰がなんと言おうと、自分が納得のいかないことには首を縦に振らない。だから、彼がしばらく考えたのちに「よしわかった」と言ってくれたときは、ミクリは心底ほっとした。誰よりも信頼している親友に反対されてまで、この冒険を強行する自信はさすがになかったのだ。  背後で蛍を捕まえている仲間たちの歓声が上がる。川面に近づきすぎたのか、通りがかりの大人が注意する声が響く。空気が菫色から徐々に藍色の度合いを増していく中、蛍の淡く涼しげな光が季節外れの粉雪のように辺りを舞う。  二人は大きな木の陰に身を隠して、素早く段取りを打ち合わせた。夏の休日の大人たちの夜は遅い。子どもたちを寝かしつけた後、友人を招いて冷やした白葡萄酒や軽い料理をふるまい、遅くまで語り合っている。会がお開きになれば、ほどよく酔いの回った両親は子ども部屋を覗くこともせず、さっさと寝室に引っ込んでしまう。夜中にこっそり家を抜け出しても、朝までに戻れば発覚するおそれはないだろう。
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