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重たい樫の扉が蝶番を軋ませながらばたんと閉まり、がちゃん、と鍵がかけられる音が壁伝いに響いてくる。しばらくして、片付けを終えたらしい両親が二階に上がってくる足音がした。ミクリは急いで夏用の薄いブランケットの下に潜り込んだが、足音はミクリの部屋で立ち止まることはなかった。
廊下の向こうで主寝室の扉の閉まる音を確認すると、ミクリはもう我慢できず、ベッドからそろりと身を起こした。
音を立てないように注意しながら、ガラス窓を大きく外側に押し開ける。夜更けの風は闇の濃さを加えて、少しひんやりと感じられる。ミクリは長袖のシャツと長ズボンに着替え、ベッドの下に隠しておいたキャンプ用の編上靴を引っ張り出した。
窓の外からフクロウの鳴き声がする。大人なら騙されるだろうが、慣れたミクリの耳はそれがカザトの鳴き真似だとすぐに聴き取った。
再び部屋の灯りを点ける。靴を履いて窓から身を乗り出すと、こんもりとしたニレの木陰の、ちょうど二階の窓と同じくらいの高さの大枝の上で、丸い光が左右に振られている。
カザトの蛍燈だ。
窓から手を振り返すと、すかさず、カザトが何かを投げて寄越した。頑丈そうな縄梯子だった。投げやすいように先端に結び付けられたクルミの殻が、ミクリの手の中で弾む。
意図をすぐに悟ったミクリは、窓枠の下に据え付けられた鉄製のオイルヒーターにその縄梯子の端をくくりつけた。丈夫なもやい結びにして、何度か引っ張ってほどけないことを確かめる。
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