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作業を終えて窓枠から顔を出すと、縄梯子は開いた窓から物干しロープのように中空を横切り、ニレの木まで渡されている。その先でカザトが蛍の光を掲げて、確認の合図を送ってきた。
ミクリは急いで部屋の灯りを消した。勉強机の端にぽわんと灯っている蛍燈をハンカチで腰のベルト受けに結わえると、窓の外へと身を翻す。
縄梯子をしっかりと掴んでぶらさがり、手だけで慎重に移動していく。校庭にある雲梯と違って反動を付けるたびにゆらゆらと揺れるのだが、ひるんではいられない。
縄梯子の反対側は、ニレの太い幹に大枝より少し高い位置で結び付けられていた。枝に跨ったカザトが揺れるミクリの足を導いてくれ、ミクリは無事に縄梯子からニレの木の大枝の上に重心を移した。
そこから先は何の問題もなかった。学校に上がる前から二人で数えきれないほど登っては怒られてきた木である。どこへ手足を置けば最短で上り下りできるか、目をつぶっていてもわかるくらいだ。夜盗さながらの身のこなしで、二人は瞬く間に夜露に濡れた芝生の上に立っていた。
勝ち誇った顔を見合わせ、音を立てないように互いの両手を打ち合わせる。そして、冒険の予感に胸を躍らせながら、裏庭の生垣の隙間をひらりとすり抜けた。
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