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午後七時
夏の宵の川べりには、無数の蛍が星雲のように光を放っている。虫取り網を持ち出すまでもない。子どもの小さな手でも、狙いをつけて軽く握るだけでたやすく捕まえることができた。
それを、細く削ったトネリコ材をたわめて上から薄紙を貼った虫籠の中へ放つと、紙の球体が内側からランタンのようにぽうっと照らされる。薄黄緑の光が明滅する様子をじっと見ていると、夕暮れの中で世界が脈を打っているかのような錯覚を起こす。
その「蛍燈」を持って行こう、とカザトは言う。
「今のうちにたくさん蛍を集めとけ。ああ、でも狭いところに詰め込み過ぎると早く弱るから、注意しろよ」
それを互いにひとつずつ持てば、夜道で足元を照らす役に立つというのだ。子どもだけでカンテラを持ち出すことは、もちろん禁じられている。
「はぐれないための目印にもなるだろ」
さすがカザト、とミクリは素直に感心する。仲間内で一番の冒険家であるこの親友は、身体だけでなく頭の働きも機敏だ。口うるさい大人たちを出し抜くのに、これほど心強い相棒はいない。
今夜、上弦の月が西の空に沈んだ頃を見計らって家を抜け出し、町の裏手にある城址まで行かないかと相談を持ちかけると、カザトは怪訝そうな顔をした。
「夜中にあんなところまで登って何をするんだよ」
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