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 しかしとにかく、オレは九条家の唯一のアルファの男子として、それなりに大切に育てられた。  こんなオレを指して『お坊ちゃん育ち』だと陰口を叩く者もいるが、なに、構わない。  それは本当の事だからだ。  オレは九条家の跡取りとして、幼少期から、下にも置かぬ扱いを受けて育ったのだから。  坊ちゃんだろうと何だろうと、事実なのだから何を言われても痛くも痒くもない。 ――――しかし、状況は変わる。  ずっと寡夫(かふ)として九条家を護っていた親父が、ある日正式に『番』として、オメガの男を九条家へ迎い入れたのだ。  その時、オレは23歳だった。  親父の妹である恵美叔母さんの会社に入社し、実家を離れて日々を忙しく送っていたオレは……完全にそれを、事後報告として聞かされた。  当然、親父の再婚など断固反対しようとは思ったが、その再婚相手であった七海達樹(ななみたつき)というオメガの男性に対して色々と負い目のあったオレは、反対の拳を力強く振り上げる事はとうとう出来なかった。 …………未遂とはいえ、過去、七海達樹を親父の周りから追い出そうと画策した事があったのだ。その悪事の一件は完全に周囲へバレてしまっていたので、オレとしては、居たたまれない事この上ない。  それに――――親父が、本当に七海を愛している事は充分過ぎる程に知っていたので……最後まで反対し通す事は、どうしても無理だった。  七海との再婚が叶ったと、親父は――――その頃はもう親子の会話もロクにしていなかったオレを呼び出して、嬉しそうに報告してきた。  あんなに、幸せそうに笑っている親父を見た事はなかった……。 (そうだ、家どうしの吊り合いだけで結ばれた母や、その子供であるオレに対して、親父は……一度もあんな風に笑いかけた事なんか無かった)  それに対して、嫉妬を感じないといえば、嘘になる。  だが――――オレも、いつまでもワガママなガキじゃない。  23にもなって、親父の再婚にうだうだと駄々を捏ねる方がどうかしている。  そりゃあ、親の再婚となれば相続やら何やら色々と絡んで来るので、それを理由に反対する事は可能だが、当の本人である七海達樹は『そんな物に興味はない、一切を放棄する』と宣言していては反対のしようがない。
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