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息が詰まって言葉にならないが、達実の自己評価の出鱈目ぶりに、采は抗議の声を上げようとする。
「誰が、いつ、そんな事を言った……! 」
「うるさい――!! 」
また拳を握ると、馬乗りのまま采の腹を殴る。
この度重なる攻撃には流石にたまらず、采は手加減するのを忘れて手刀を払った。
采は、空手の有段者だ。
手加減の無いそれは達実の脇腹を薙ぎ、彼の息を瞬間止めた。
「っ――」
「どけ! 」
強い声で言うと、采は達実の上体を腕で押して強引に引き剥がす。
不意打ちを喰らった達実は、殴られた腹を抱えて絨毯の上にうずくまった。
だが、腹を抱えて膝をつきたいのは采も同じである。
二回も達実の拳を喰らったのだ。
ハッキリ言って、相当痛い。
しかし采は、兄としての威厳を保ちたいという意地だけで何とかそれを堪えると、出来るだけ毅然とした態度を取りつつ、説教の為に口を開いた。
「バカな事ばかり言うな! オレの愛人が気に入らないのはよく分かったが、何でそれでオレに絡んで来るんだ。とにかくお前は、オレの弟だ。嫌いとか好きとか、あのオメガとは全然違う次元の話だろう! 」
「う……」
しかし、返って来たのは弱々しい達実の呻き声である。
もしや、手刀が決まり過ぎて肋骨にヒビでも入ったか?
急に不安になった采は、うずくまったままの達実へ駆け寄った。
「どうしたっ!? どこか――」
だが、そのセリフは強制的に途切れさせられた。
達実が、近寄ってきた采の唇をまたもや奪ったからである。
しかし今度は直ぐに唇を離すと、綺麗な瞳から真珠のような涙をポロポロとこぼした。
「采は――僕のことは、好きじゃないのか? 」
「好きって……だ、だから……それは――」
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