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「『それは』?……なに? 」
「う……」
達実の真剣な眼差しに、采の心が揺れる。
思わず、口が滑りそうになってしまう。
『お前が好きだ』と。
『誰よりも美しいお前から、いつの間にか目が離せなくなっていた』と。
――――だが…………。
「オレは、お前の事は……好きじゃない! 」
と、心とは裏腹な事を口走ってしまった。
目に見えて分かるくらいに青ざめた達実に向かい、采は視線を逸らしながら、続けて断言する。
「オレもお前もアルファだ。アルファ同士でなんて、そもそも恋愛の対象になる訳がないだろう」
その嘘を誤魔化すように、采は立て続けにひどい嘘を口にする。
「お前はガキで生意気だし、可愛げも無い。ましてや義理とはいえ弟だ。二十以上も歳の離れた、な」
「僕はガキじゃない。もう18だ! 」
「オレから見たら、充分にガキだ。まったく――親父のヤツにも困ったもんだよ。純愛だか何だか知らないが、番が他所で作った子供を九条の籍に入れて――」
と、いつもの憎まれ口を叩こうとしたところ、達実は反撃する様子も無くフラリと立ち上がった。
通常なら、ここで『うるさいっこのハゲ! 』と、やり返して来るはずなのに。
しかし翠玉の瞳からは、途切れることなく涙がこぼれている。
采は、自分がどうしようもない極悪人になったような気がしてきて狼狽えた。
「あ――あの、な……」
とりあえず何か言い繕おうと言葉を探す采に、達実はキッと視線を向ける。
そうして、押し殺すような声で呟いた。
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