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「――も……僕も采なんか、嫌いだ! 」
「達実――」
「バカ! 大嫌いだ! 采なんか知らない! 死んじまえ!! 」
そう言うと、達実は床に転がっていたサンドイッチを掴み、采に向かって投げ付けた。
それは采の顔を直撃し、瞬間、視界が途切れる。
「――っまえ、何するんだ! 」
顔に付いたパンくずを手で払いのけると、もうそこには達実はいなかった。
達実は、泣きながらマンションを飛び出して行ったのだ。
「……あの、バカ……」
苦々し気に吐き捨てながら、采はコンシェルジュに連絡を入れてクリーニングの手配をする。
(やはり――失敗しちまったようだな……)
クールに最後まで兄として振舞おうとしたが、真っ直ぐな達実の言葉に始終気圧されっぱなしだった。
真っ赤に燃え盛る太陽のような、達実の情熱。
その達実の糾弾を躱す事など、並の人間には無理だ。
――――当然、采にも。
「……大嫌い、か……」
その言葉が、思いの外、胸に突き刺さる。
采も、達実に言ってしまった。
『好きじゃない』
本心とは違うセリフを……采も口にした。
互いに嘘だと分かっていながら、その言葉を選んだ。
(あとで後悔しないようにするには、これが一番なんだ)
そうは思うが、本当に言いたかった言葉を選んでいたならどうなっていただろう?
答えを知りたいような、しかし知るのが怖いような気がして、采は苦い表情になった。
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