Liar and liar

27/28
411人が本棚に入れています
本棚に追加
/224ページ
「――も……僕も采なんか、嫌いだ! 」 「達実――」 「バカ! 大嫌いだ! 采なんか知らない! 死んじまえ!! 」  そう言うと、達実は床に転がっていたサンドイッチを掴み、采に向かって投げ付けた。  それは采の顔を直撃し、瞬間、視界が途切れる。 「――っまえ、何するんだ! 」  顔に付いたパンくずを手で払いのけると、もうそこには達実はいなかった。  達実は、泣きながらマンションを飛び出して行ったのだ。 「……あの、バカ……」  苦々し気に吐き捨てながら、采はコンシェルジュに連絡を入れてクリーニングの手配をする。 (やはり――失敗しちまったようだな……)  クールに最後まで兄として振舞おうとしたが、真っ直ぐな達実の言葉に始終気圧(けお)されっぱなしだった。  真っ赤に燃え盛る太陽のような、達実の情熱。  その達実の糾弾を(かわ)す事など、並の人間には無理だ。 ――――当然、采にも。 「……大嫌い、か……」  その言葉が、思いの外、胸に突き刺さる。  采も、達実に言ってしまった。 『好きじゃない』  本心とは違うセリフを……采も口にした。  互いに嘘だと分かっていながら、その言葉を選んだ。 (あとで後悔しないようにするには、これが一番なんだ)  そうは思うが、本当に言いたかった言葉を選んでいたならどうなっていただろう?  答えを知りたいような、しかし知るのが怖いような気がして、采は苦い表情になった。
/224ページ

最初のコメントを投稿しよう!