My important friend

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 まさか、本当に北欧へ帰ったのだろうか?  采は、努力して微笑みをキープしながら、涙を浮かべて去って行った達実のことがどうしても気になってグッと拳を握り締めた。    ◇  そのころ達実は、成田空港にいた。  しかし荷物はなく、手ぶらだ。  何故なら、彼はここから出国するのではなく、これから来日するゲストを迎える立場であるからだ。  目立たないようにキャップを被り、色褪せたタンクトップと擦り切れたダメージジーンズを履いた達実は上手く一般人に紛れ込んでいるつもりであるが、抜群のボディーバランスと、アルファ特有の華やかなオーラは隠しきれるものではない。  誰もが達実を見ては、驚嘆の溜め息をついて足を止めている。  だが、達実はそんな事には気付かない。 ――――何故なら、それはいつもの現象であったからだ。  どこにいっても注目を集める彼は、他人に視線を向けられることにすっかり慣れてしまい、それを一々気に掛けることもなくなっている。  母の奏などは、今でも衆目を浴びる事には慣れず、学会で様々な人物に囲まれる事を苦手としているのに。  これが、庇護者であるオメガと、征服者であるアルファの違いかというばかりに差がある。 「そろそろだと思うけど……遅いな」  苛立つように呟いた声も小さいのに、遠巻きになって彼に見惚れていた人々はビクリと身を縮める。その一挙手一投足に、誰もが魅せられていた。  だが、当然のように達実はそれらに気付かない。  彼はただ、入国ゲートをジッと見て――――そして、目当ての人物を見つけると、パッと笑顔になって手を振った。 「アレン――! 」 「タツミ!!  My dear sweetheart! 」
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