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そう言うと、アレンは再び腕に力を入れてギュッと達実を抱き締めようとした。
だが、達実の方はそれをアレンの冗談だと思ったようだ。
笑いながらアレンの腕から逃れると、彼のスーツケースへと手を伸ばす。
「ははは、アレンは、本当にいかにもアメリカ人って感じだな。日本人はみんなシャイだから、せいぜいが握手止まりだよ。……さぁ、向こうにタクシーを待たせてあるんだ。日本には、自家用ジェットじゃなくて民間機を利用して来たのには、何か理由でもあるのかい? 」
「Oh……タツミ。そんなの、一刻も早く君に会いたかったからに決まっているじゃないか」
「? 」
「自家用ジェットは、離着陸に事前許可の申請が必要なんだよ。でも民間機なら、スケジュール通りに毎日運航しているからね。私の仕事がやっと目処が付いたから、すぐに君に会おうと思って速攻で日本行きを手配したんだ」
「本当か? どうしてまた――」
驚いて目を丸くする達実に、アレンは情熱を込めて言い募る。
「だって私は、一刻も早く君に会いたかったんだ」
「アレン……」
「君と一緒に休暇を過ごそうと、ずっと楽しみにしてたんだよ。それが突然キャンセルされたんだ。ジェラシーで、どうにかなってしまいそうだったよ」
言葉通りに身悶える素振りをしてみせるアレンを見て、達実はまた笑った。
「はは、アレンはいつも面白いな」
「しかし、タツミ――何だか顔が暗いね? 日本にはホウヨウという用事で行くんだとメールに書いてあったけど、楽しい要件ではないのかな? 」
「うん……」
曖昧に笑うと、達実はトランクを持つ手に力を入れて、アレンの視線から逃れようとした。
だが、相手はその態度に不信感を抱いたようだ。
いつも、艶やかに咲き誇る薔薇のように華やかな達実が、何故だか萎れているように見える。
そんな事は、断じてあってはならないことだ。
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