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トランクを転がして歩く達実から、それを奪うように手を掛けて止めると、アレンは真剣な眼差しで達実を見つめる。
「どうした? 何かあったのかい? 」
「――――アレンには、関係のないことだよ」
つれない態度に、アレンはますます焦れたように追及する。
「どうしてそんな事を言う? 私は、君の一番の親友だろう! 」
「……」
「私の可愛いタツミ、どうかそんな辛そうな顔をしないでおくれ」
そのセリフに、達実はフッと微笑んだ。
「『可愛い』か……。そんな風に言ってくれるのは、君の他はもう奏だけだな。ダディも死んでしまったし……」
本当は、そのセリフを言ってもらいたい人がここに居る。
でも、可愛いなんて――――華奢で可憐なオメガならともかく、こんなデカい男相手には言ってくれそうもない。
そう思うと、達実はアルファである己に対して、心底嫌気が差しそうになってきた。
「……僕は、可愛くなんてないよ。可愛いっていうのは、奏のような愛らしいオメガの事を言うんだ」
「タツミ? 」
俯いた達実を気遣うように、アレンが様子を伺おうと身をかがめる。
しかしその前に、達実はパッと顔を上げて、努めて明るい口調で喋った。
「あのね、実は、法要の本番が今日だったんだ。でも、今朝君からメールが来たから――――迷ったけど、こっちを優先したってワケ。後で一緒に、ダディのお墓参りに行ってくれるかい? 」
「もちろんだよ! しかし……それじゃあ、私は随分とタイミングの悪い時に来てしまったようだね。タツミの日本の家族にも悪い事をした」
「いいよ……そんなの。向こうも、義理で僕を呼んだだけだろうし」
「義理? 」
「Moral obligationってことだね。日本人は、本音と建て前っていうのがあるのさ。僕は戸籍上九条凛の息子になっているから、呼ばない事には体裁が悪かったって事だね。――――そうさ、本心では僕になんか……会いたいワケがないんだ……」
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