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マンションで出会ったあのオメガのように、もっと小柄で中性的な容貌であったなら――――きっと、その『可愛い』という言葉もすんなりと受け入れることが出来るのだろうけど。
アレンは、日本人のように忖度したり、お世辞を言う人種で無いことは確かだ。
しかし、己に自信のない達実は、能天気にその言葉を信じることは出来そうもなかった。
「……さぁ、とにかく行こう! 」
仕切り直すようにそう言うと、達実はトランクに手を伸ばす。
だが、アレンは『ちっちっ』と舌を鳴らすと、達実より先にトランクを転がして歩みを再開させた。
「私が、君にポーターのような真似をさせるわけないだろう? 」
「でも――」
「さぁ、車まで案内してくれ。日本滞在中はモルガンホテルのスイートに泊まる予定だよ。タツミは、日本にいる間はクジョーの屋敷に寝泊まりしているのかい? 」
「いいや。僕もホテルに泊まっているよ」
ハハっと笑い、達実は答える。
「って言っても、アレンみたいに五つ星ホテルじゃないけどね。でも、日本のホテルは清潔だしチップもないから快適さ」
「Oh……それなら、私と同じホテルに泊まるがいい。ゲスト用の部屋は6つもあるから、一人では寂しいと思っていたところだ」
「でも――」
「それに、その方が節約になるぞ」
「『節約』か……」
実は、その言葉は達実の中の常識をくすぐるキーワードだったりする。
質素倹約は、奏の教える教育の一環だったからだ。
達実は、母であり教育者でもある奏によって、幼い頃から、飽食や奢侈に浸る行動は悪しき行いだと丁寧に教育され、ここまでスクスクと成長した。
これほど、曲がったところのない真っ直ぐな精神を持った青年もいないだろう。
それが一層、彼の魅力を引き立てている。
輝くような容姿と、健全な黄金の精神は、アレンを惹き付けてやまない。
「――――なぁ、そうしたらいい。滞在費を上手く節約したら、奏も褒めてくれるぞ」
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