Worrisome person

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「ああ、奏は……あの人は欲がないから――」  恵美はそう言うと、溜め息をついて肩を竦める。 「やれ、相続だ義理事だっていう話には二度と関わり合いになりたくないからって、ずっと籍に入るのを断っているのよね。でも雑音がうるさいからってアメリカに行ったきりになって――――そうして、今度は呆気なくアメリカからも場所を移してしまって。まったく、それでどれだけの男共が泣いた事だか……」  しかし、自身がまさかそんなに熱愛されているとは思っていない奏は、さっさと北欧の研究所へ移籍を決断してしまったのだ。  今は、周囲の雑音に惑わされずに、悠々自適な研究ライフを送っているらしいが。 「でも、北欧にだってアルファもいればベータもいる。あの可愛い東洋人を狙っているオオカミは多いっていうウワサだねぇ」 「――そんな……48にもなったオメガ男体に――」  采が『そんなバカなと笑うと』、恵美は大真面目に答えた。 「歳なんか関係ないわよ。この雑誌を見ればわかるでしょう? 奏は、可愛くて魅力的なのよ……特に、子供を産んでからね」  そう、奏は達実を産んでから、とても魅力的に変化していたのである。  元々華奢(きゃしゃ)で質素だった彼は、どちらかというとみすぼらしいとか弱々しいとかいう評価が当て嵌まるような雰囲気だったのに、妊娠、出産を機にとても麗しい可憐な華に変わったのだ。  穏やかに微笑みを浮かべる様子は、嫋やかな芙蓉のようだともっぱらの評判である。  彼の、あの細い手を取ってエスコートしたいと、あらゆる階級のアルファやベータ達が熱望するようになったのだが。 『みんな、優しくて親切ですね』  奏はその一言で笑ってやり過し、達実の世話と研究にばかり没頭してしまった。 「――あとはまぁ、御存じの通りよ」 「でも、九条の遺産だって相当魅力的なんじゃないですか? 達実はウチの籍に入ってるんだし、あいつ()だって本心では――」 「彼は、研究で次々と結果を出して多くの特許を持っているのよ? 自分自身の才能で一財産築いたわけだから、今更他所の家の財産なんか興味も無いし要らないってことね」  やはり、結城奏と達実を『実は守銭奴だ』と罵る事は見当違いらしい。
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