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どうせ後で、やれ遺産相続の権利があるだなんだとハイエナのように言い出すのだろうと思っていた。
そこで、正義と正論を振りかざして堂々と糾弾してやろうと思っていたのだが……アテが外れた。
これでは本当に、自分は用も無いのに、無理に達実を日本へ呼び出した間抜けではないか。
憮然として、采は口を開いた。
「恵美さん――じゃあ、オレが間違っていたっていうんですか? 」
「あんたは、正しいわよ」
あっけらかんと言うと、恵美はカードを采へ差し出した。
「これ、あの子に渡してやって。日本にいる間は、このカードを使ってって」
「……」
「日本にいる間くらいは、こっちが面倒見るのが筋よ。諸々の手続きが終わるまで、あの子のお守りをよろしくね」
「そんなっ! 」
「仕事の方は、一ヵ月の休暇を空けてあげるわ。あの子と、少しは仲良くなりなさいよ。あんたの方がずーっと年上なんだから、ぶつかりそうになっても譲歩してやりなさい」
「恵美さん――」
「あんた達はっ! 」
強い声で言うと、恵美はキッと眦を吊り上げた。
「義理だけど兄弟なんだから、兄のあんたがちゃんと面倒見なさい! 分かったわね? 」
ある意味、母親代わりで育ててもらった恵美には強く言い返せない。
采は渋々、そのカードを受け取ったのだった。
◇
達実は、采と恵美が話し合っている間、別室で、九条凛の遺品をあれこれと眺めていた。
――――凜と達実は、血が繋がっていない。
にも関わらず、彼はずっと、達実を心から大切に慈しみ誰よりも愛してくれた。
「ダディ……死んじゃうなんてヒドイよ。奏と夫婦になってもらう計画が台無しじゃないか」
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