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「じゃあ、届け先は打ち上げ場所?」
「うん。これから俺が行こうと思うんだけど、金庫もあるから本部が誰もいなくなるのはまずいんだ。翼、留守番頼める?」
困り顔の康臣を見て、
「私、届けるよ」
つい、言葉が出た。
「でも、スキー場のかなり上のほうだよ。道もないし真っ暗だから、俺が行くよ」
「リフトは動かせないの?」
「なるほど、確かにその方が安全だし早いかもな……じゃあ、リフトの管理をしている恋幌ホテルに連絡を入れておく。花火師さんにも、リフトの降車場所で待ってるように伝えておくよ。でも、本当にいいの」
「うん。やらせて」
地図に印をつけてもらい、私は駆け出した。花火が始まる20時まであと30分。ここからホテルまでは走って10分くらいだろうか?
ひんやりした夜風を切って走っているのに、どんどん体が熱くなる。
寝不足だし、一日動き回って、身体のあちこちが痛い。
どうして、引き受けちゃったりしたんだろう。
そもそもこの発火装置、相当な重さだ。
後悔しかけた矢先、駐車場から出てきた人影に、ぶつかりそうになる。
そうだ、自転車! 町内会館は通り道だ。自転車にトランクを積み、全力で坂道を漕いで行く。走るよりはいいけど、足が辛い。
太ももがパンパンになるのを感じながら、恋幌ホテルへ駆け込むと、フロントに出てきた男性スタッフが、
「申し訳ない!」
と頭を下げた。
「え?」
「点検や準備をしないとリフトは動かせないんですよ」
「ええええ」
「ナイター用のライトは点けましたから、気を付けて登ってください。20分くらいかな」
まさか足であの山を登ることになるなんて。すでに腕も筋肉が千切れそうだ。
でも、心のどこかに火が点いた。
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