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「ここで見るか」
と雅紀も車の前に寄りかかり、花火を眺める。
「うん」
と私もその傍にしゃがんだ。もう足が痛くて、立っていられない。
「花火の無線発火装置、届けたんだって?」
雅紀が面白そうに言う。
「うん」
「よくやった」
ぽん、と頭に温かい掌が乗る。汗まみれの髪をくしゃくしゃと雅紀は撫でてくれた。
また一つ、金色の大玉が空に弾ける。
「おー向日葵みたい」
きらきらと火の粉がすべて消えてしまうと、雅紀が言った。
「俺、花火は大事な人と見るって決めてるんだ」
「は?」
「こんなにうるさくて、野生動物には迷惑極まりないことをしたうえに、花火会場には大量のゴミも出る。とくにプラスチックごみの被害は深刻だ」
やっぱり環境問題の話らしい。
「でも、花火くらいいいんじゃないの。一年中やってるわけでもないし」
「そう。俺も妥協することにした。大事な人と思い出を作るためなら、花火を見てもいいって」
「ふーん? じゃあ今年は?」
坂井そらは帰ってしまったじゃないか、と考えて、はたと思い当たる。まさか、まさかね。
「翼が大事な人」
ひゅるるる、とまた打ち上げの音。ぱーんと開くと、ピンク色の煌めきが降り注ぐ。
「はあ」
もう体力と気力の限界にきて、同居人から告白まがいのことを言われても対応が追いつかない。
「えーとじゃあ、今年からルール変えてもいいんじゃない?」
嬉しかったのに、ドキドキしたのに、ついそんなことを言ってしまった。
やっぱり私は変わらない。態度の悪い、イヤな女。
「変えません」
花火に負けない大声で、雅紀がきっぱりと言い返した。
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