31人が本棚に入れています
本棚に追加
「シン!」
細身の体の美女は俺を見ると妖艶な笑みを浮かべた。
「ジュディ。久々だな」
俺は笑顔を向けるとその向かいの席に腰を下ろした。
「昨日、カナエに会ったわ!」
ジュディは嬉しそうに笑いながらそう言った。彼女の紹介で俺は7年前にジュディ・チュアにあった。初めのうちは発音がすこしおかしな日本語を使っていたが卒業するころには完璧な発音で日本語を話せるようになっていた。
「東京に行ったのか?」
「ええ、だって私の目的はカナエだもの」
ジュディはそう言ってまた笑った。ジュディはよく笑うようになった。大学のころは彼女と同じでぶっちょうずらをしてることが多かったのに。
「シンは本当変わらないわね。カナエもだったけど。相変わらず人形みたいだったわ」
俺は黙ってジュディの話を聞いていた。
「ねぇ。シン、カナエもらってもいい?」
ジュディの言葉に俺は口の中のお茶を吐きだしそうになった。それを見てジュディは笑った。
「あなた、まだカナエのことを好きなんでしょ?」
ジュディは俺に紙ナプキンを渡しながらそう聞いた。
「もちろんだ。しかも俺達は付き合ってる。」
「嘘でしょ?!」
ジュディは俺の言葉に目を丸くした。
「本当だ。2年近くになる。」
「そう‥。じゃあ、きっとカナエはウンって言わないかしら」
ジュディはテーブルの上に置かれたチョコレートケーキに視線を落としながらつぶやいた。
「なんのことだ?」
「‥聞いてないの?」
ジュディはまずいことを言ったというようなばつの悪そうな顔になった。
ここ数日俺は彼女と連絡をとってなかった。
「頼む。教えてくれ」
「‥多分。カナエはシンに心配させたくないから、言わなかったと思うんだけど‥」
ジュディは言いずらそうに口を開いた。
ジュディと別れた後、俺は茫然とした。
香港行きの話があったなんて聞いたことがなかった。
昨日話したばかりと言ってたから、聞いてなくて当然かもしれないが‥
俺はショックだった。
「カナエ」
アパートの下で待ってる俺の姿をみて彼女は驚いていた。
「電話すればよかったのに」
彼女をそう言って、俺を部屋に入れた。
「カナエ!」
俺は自分の気持ちを抑えきれなった。
玄関口で俺は彼女を抱きしめた。
「松山?!」
彼女は体をこわばらせていた。
「行かないでくれ。お願いだ」
俺は自分が泣いているような気がした。彼女はゆっくり、しかし強く俺を拒否した。
「ごめん。松山。私は決めたんだ。香港で自分の可能性を試す。日本のことをすべて忘れて」
彼女の瞳には強い意思が宿っていた。
「‥俺のせいか?」
なぜか俺はそう口にした。
俺は知っていた。
俺の気持ちが彼女に負担をかけていたのを‥。
「違う。誰のせいでもない。ごめん。松山。お願いだ。行かせてくれ。」
彼女は俺の腕を強く掴んで、俺を見上げた。その瞳は涙で潤んでいた。
嘘だ‥
彼女はあいつから、あいつへの気持ちから逃げるために日本を出たいんだ。
そして俺からも逃げるために‥
俺は強引に彼女を抱きよせ、その唇を奪った。彼女が珍しく抵抗したが、俺の方が力は上だった。
俺はそのまま彼女を押し倒した。
最低だ。
俺は自分が最低なことをしてることを知っていた。
でも彼女を逃したくなかった。
最初のコメントを投稿しよう!