初恋の終わり

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近所に引っ越してきた子は無口な子だった。 空手をしてるらしく、空手着をきて家を出る姿を何度が見た。 近所なのに話したことがなかった。 中学生になり、同じクラスになった。 その子はいつも一人だった。いじめられてる様子もなかった。 クラスの女子とも普通に話してる様子だったけど なぜかいつも一人だった。 かたくな雰囲気が彼女を包んでいた。 凜とした空気が彼女の周りと包んでいた。 俺はいつの間にか彼女から目が離せなくなっていた。 「上杉さん」 「何?」 俺がそう呼ぶと彼女は読んでいた本から顔を上げた。きれいな顔だった。目が澄んでいた。吸い込まれそうになった。 「あ、俺。近所に住んでるんだ。松山シンスケっていうんだ。」 「うん。知ってる。何度か見たことがあった。」 俺は彼女が俺のことを知っていたことがうれしかった。 「その本、好きなの?」 「うん。お気に入りの作家。読んでてせつなくなるんだ」 彼女は笑顔でそう答えた。 俺たちはその日から友達になった。 高校生になり、俺と彼女は違うクラスになり、以前よりも話すことがなくなった。それでも近所なので本の貸し借りなどをしていたが、彼女は部活に忙しくらしく、俺と顔を合わせることが少なくなっていた。 「上杉、待ってよ」 学校一といっても言いぐらいのモテ男の武田タカオが彼女に声をかけた。彼女は無視して歩いていた。 「上杉、今日は(空手)部長の送別会だから。参加しないとだめだよ」 武田が先に歩く彼女の腕を強引に掴むと体育館へ連れていくのが見えた。彼女の顔が少し赤くなっているような気がした。 「松山、久しぶり。どうした?」 俺は2年になったある日、学校で彼女に本を返す口実を作り話しかけた。 「これ、ずっと借りていただろう?」 「ああ、忘れてた。ありがとう」 彼女は微笑んでそう答えた。 背中に刺すよう視線を感じた。それは誰かが俺を見る視線だった。 振り返ると後ろにいたのは武田だった。しかし武田は友人達と談笑していた。 気のせいか? 2年になって彼女の雰囲気は変わった気がした。やわらかくなったような気がした。 つまらない歴史の授業でぼんやりと窓の外をみると彼女の姿が見えた。すんなりと伸びた手足が体操着から見え、眩しかった。その長い髪の毛を束ね、額に汗をかいていた。 ふと俺は彼女を見つめる、もうひとつの視線に気がついた。 武田が彼女を見つめていた。武田は俺が見ていることに気がつくと微笑んだ。その笑顔は恐ろしく美しく、冷たかった。 3年になり、彼女はまた変わった。 大人の色香というものか、彼女を見てると切なくなった。 「上杉!」 帰り道、彼女を見た。俺がそう呼ぶと彼女は不機嫌そうに振り向いた。 「松山、ごめん。上杉って呼ぶなって言ってるだろう」 武田にはそう呼ばせてるだろう?と言いたくなったが、あの美しい冷たい顔を思い出し言うのをやめた。 「わかったよ、上杉さん。今日山田ジロウの本入荷したんだけど借りにくる?」 「本当?読みたいな。あ、でも今日はだめだ。明日行ってもいい?」 「OK.明日な」 しかし数週間たっても彼女が借りにくることはなかった。 それから1ヶ月がたち、彼女は空手部をやめた。そして彼女は学校も休みがちになった。 しかし受験が近いある日、俺は彼女を学校で見かけた。 「上杉!」 俺がそう呼ぶと彼女は不機嫌そうに振り向いた。 「上杉って呼ぶなって言ってるだろ」 「だったら、カナエって呼んでいい?」 俺の言葉に彼女はため息をついた。 「いいよ。上杉よりはましだ」 カナエって呼べるのか。 俺はうれしくなって笑った。 「じゃあ、カナエ。お前、市山大学受けるんだろう?」 「そうだけど?」 何で知ってるんだと彼女は不機嫌そうに俺を見た。 俺は彼女のクラスメートの女子と友達だった。その子もたまたま市山大志望だったことから情報を得た。俺は受ける大学を決めかねていたから、彼女と同じ大学に決めた。 「俺もその大学受けるんだ。お前空手部に入ってからなんかずっと急がしそうだっただろう。今はやめたみたいだから。一緒に勉強しようぜ」 彼女は俺を一瞥すると、一人で歩き出した。 「待てよ。どうせ、帰り道は一緒だろう」 俺は彼女を慌てて追いかけた。 背中に刺すような視線を感じたがどうでもよかった。 彼女はもう空手部でもないし、武田ではなく俺と同じ大学に行くのだから。
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