恋が終わるとき

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「ユキコちゃん、この方はどう?」 そう言って母は私に写真を見せた。写真の中にはさわやかそうな笑顔の男の人が写っていた。 「お母さん、私は結婚するならちゃんと付き合ってからがいいの。お見合いとか興味ないから」 25歳を過ぎてから、両親は何かと結婚の話をするようになった。父いわく結婚が女の幸せだそうだ。私は仕事には興味なかったし、早く結婚したかったけど、大好きな人と結婚をしたかった。 お見合いは嫌だった。 「宮園さん」 声をかけて振り向くとそこには武田くんときれいな女性が隣にいた。 「エミ、紹介するよ。この人は宮園ユキコさん。私の上司の娘さんで、同僚なんだ」 「こんにちは。」 エミと呼ばれた女性はぺこりと頭を下げた。その顔に心配げな表情が見とれた。 やっぱり武田くんって… デート中に同僚とは言え、女性に声をかけなくてもいいのに。 「これからどこか行くの?」 とりあえず私はそう聞いた。 「ああ。映画を見るんだ。エミが見たいっていっていた映画があって」 武田くんは穏やかな笑顔でそう答えた。エミさんの表情がさらに曇るのがわかった。 「あ、こんな時間!武田くん、エミさん、映画楽しんでね。それじゃあ」 私は慌ててそう言うと二人から離れた。 邪魔をしたくなかった。 二人の姿が見えなくなるところまで来て私は立ち止まった。そして大きく深呼吸をする。 なんだか嫌な気持ち。 デートかあ。 しばらくしてない。 結婚を前提にお付き合いかあ。 試してみようかな。 「君は料理できるの?」 さらさらした黒髪をかきあげあがら町田サトシさんはそう聞いた。 「ええ、好きですけど」 町田さんは某証券会社に勤める30歳の男性だった。ハンサムな人だった、でも潔癖な感じで、レストランに入ってもナプキンでフォークとナイフなどをふき取ってから使った。 この人だめかも… 「俺はダイビングが好きなんだ。君は興味ある?」 短い髪に健康的に焼けた男の人、田村ノボルさんはそう言った。 町田さんは苦手な感じだったけど、田村さんは気さくで気が合いそうだった。 私と田村さんは付き合い始めた。 「プーケットって知ってる?」 ベッドにもぐった私に田村さんはその優しい瞳を向けて聞いてきた。私が首を横に振ると田村さんは笑って私の髪を撫でた。 「タイにある島なんだけど、ダイビングに最適なんだ。今度の休み行かない?」 私はうなずいた。 「武田くん!」 空港で武田くんの姿を見て私は思わず声を上げた。 「ああ、宮園さん。君もどこか行くの?」 ショーカットの髪が似合うかわいい女性の隣で武田くんはそう言って笑った。 また違う女性だ… 「ユキコちゃん、この人は誰?」 私の横にいた田村さんが穏やかな声でそう聞いた。 「この人は武田タカオくん。私の同僚なの。」 「はじめまして。私は田村ノボルです。私達はプーケットにダイビングに行くんだけど、君達もどこかにいくの」 田村さんは武田くんに笑顔を向けた。 「田村さん。はじめまして。この子は僕の彼女で野村メイ。僕たちは中国に遊びに行くんです。」 武田くんはメイと呼ばれた女性の肩を寄せてそう答えた。 メイさんはちょっと赤くなって照れていた。 私はなぜかメイさんがうらやましかった。 「じゃあ、私達は飛行機の時間があるから。ユキコちゃん、行こう」 田村さんは私の肩を優しく抱き寄せるとゲートに向かって歩き始めた。 「またね。宮園さん」 武田くんは手を振るとメイさんを連れて私達とは逆の方向へ歩いていった。 なんだろう。 嫌な気持ち… 私はこの気持ちを旅行中ずっと抱えて楽しめなかった。 そして26歳になり春が来た。 私は結局田村さんと別れた。 会社帰り桜並木を見るために来ていた。 風が吹き、桜の花びらが雪のように舞っていた。 そこにあの人が立っていた。 以前そこで見たときより、骨格がしっかりしていて男らしくなっていた。 それでもその美しい顔には変化がなかった。 初めてここで見たときから予感はしていた。 多分彼のことを好きになってしまうだろうということを。 ただ認めたくなかった。 傷つくのがわかっていたから。 でもやっぱりだめだった。 「武田くん」 私が呼ぶと武田くんは穏やかな微笑を私に向けた。 私は彼に囚われていた。 彼の魅力に勝てなかった。
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