長條さん

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「…ナイスキー」 ほかの部員より幾分トーンを下げた声で岬は言った。 今この女子バレー部で圧倒的なパフォーマンスを魅せ続けている長條(ながじょう)(りん)こそが岬の悩みのタネである。 平穏で少々緩み切っていたバレー部を好んでいた岬にとって彼女の出現は嬉しいものではなかった。 3週間前凜は突然この学校に転入してきた。 滅多に転校生など来ない片田舎に彗星のように現れて、女子バレー部に入部しあろうことかこの部のエースにまでなってしまったのだ。 その姿に一部の部員は感銘を受け、感化され、そして一層この球技に精を出し始めた。 一生懸命頑張るのはいいことだが、ぬるま湯を好む岬には辛かった。 彼女に感化された部員が張り切り、この部活動は活気のあるものになった。 そしてそれを岬以上によく思わない者がいた。 「レフト!」 宏美がまた声を張り上げ、ボールをトスでふわりと指で弾いた。 「んん!」 腹に力を入れた唸りの後、ボールは床に叩きつけられた。 凜ほどの威力はないが、中々強烈なアタックだ。
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